理系分野で活躍する女性を増やそうと、産官学が一丸となって動き出しています。この夏休み期間中、理系を志す女子中高生向けのイベントが各地で開催され、生徒たちの意識は徐々に変わり始めているようです。しかし、現状では保護者の理解が追いついておらず、親への働きかけがこれからの課題といえます。
メルカリの山田進太郎CEOは「女性技術者が少ない現状に危機感を持っている」と語り、2021年に設立した財団を通じて女子学生への奨学金支援や大学との連携を進めています。今年も慶応義塾大学など24の大学と協力して研究室見学ツアーや女子学生との交流会を実施し、企業や研究機関とも連携しながら幅広い取り組みを展開しています。また、大学や自治体による独自のプログラムも盛んで、実際に理系分野で活躍する女性を身近な「ロールモデル」として紹介することで、生徒たちの意識改革に効果を上げています。
とはいえ、日本におけるSTEM分野の女子比率は依然としてOECD加盟国中最低の19%にとどまっています。それでも少しずつ状況は好転しつつあり、特に工学部の女子入学者比率は10年前の約10%から2023年度には17.3%に増加しました。河合塾の調査によれば、工学部志望の女子受験生は前年より4%増え、電気・電子分野への志望も目立つようになっています。「男性中心」と思われがちな職種でも女性が活躍する姿が増えたことで、受験生の意識が変わりつつあるのでしょう。
また、理工系の就職状況が良好であることも追い風となっています。経団連による調査では、理工系出身の女性を積極的に採用したいと考える企業が6割に上ることが分かりました。女子受験生を対象にした特別枠の拡大など、大学側の施策も人気を後押ししています。
一方で、理系志望の女子学生にとって「保護者の理解不足」が障害となっている現実も浮き彫りになっています。東京工業大学では推薦入試に女子枠を設けたところ、一般入試でも女子志望者が増加し、女子比率が15%を超えましたが、多くの入学者は「親からの理解や応援が十分でない」と感じているといいます。医・薬・農学部では女子の比率が3〜5割であるのに対し、理工系ではその半分程度にとどまっています。これは、医療系の職種と比べて理工系の将来像が保護者にとって不透明であることが要因と考えられます。
東京大学の横山広美教授の研究によると、性別役割への固定観念が強い家庭では、女子が理系に進みにくい傾向があるといいます。「女子は数学が苦手」といった偏見が根強いことも進路選択の妨げとなっているのです。しかし、数学や物理の成績上位層に性差はほとんどなく、理系科目の素養は個人差によるものであることをもっと周知すべきでしょう。
STEM分野で女性が活躍するためには、社会に根付く偏見や障害を一つずつ取り除いていく必要があります。大学や企業は女性が働きやすい環境を整え、その姿を積極的に発信することが求められます。理系女子の未来を明るく照らすため、私たちができることはまだまだ多いはずです。