巧妙化するSNS型詐欺、心理術を駆使した手口に要注意——投資・ロマンス詐欺の急増と対策

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る

SNSを悪用した投資詐欺やロマンス詐欺が急増しています。特に資金力のある中高年層を標的にした犯罪が猛威を振るい、巧みな心理術を使って被害者を引き込みます。被害者の証言をたどると、一見冷静で社会経験も豊富な人々が、いかにして詐欺の罠に陥ったのかが浮き彫りになります。

ある神奈川県在住の62歳女性は、約2000万円の退職金を元手に投資話にのめり込み、最終的にはすべてを失いました。「有名アナリストから学べる」といったSNS広告に引き寄せられ、信頼できそうな経歴を持つとされる人物と接触。その後、約80人が参加するチャットグループに誘われ、他の参加者たちが利益を上げている様子を見て焦りを感じ、所有する株を売り、自宅を担保に借り入れた1100万円を含め、すべて送金しました。しかし、出金を求めた途端に連絡が途絶え、結果的に借金返済のため自宅も手放すことになりました。「自分でも信じられない判断をしてしまった」と女性は語ります。

社会心理学の専門家である立正大学の西田公昭教授によれば、こうした詐欺では「権威性」と呼ばれる心理効果が利用されています。人は地位や肩書を持つ人物の言葉を信じやすい傾向があり、詐欺集団はその信頼を逆手に取ります。また、大勢が同じ行動を取ると、それが正しいと思い込んでしまう「合意性」の心理も狙われています。チャットグループ内で他の参加者が次々に送金する様子を見て、女性も自分もそうしなければならないと感じたといいます。

一方、SNSを通じて恋愛感情を抱かせ金銭を騙し取る「ロマンス詐欺」も深刻です。栃木県の47歳男性はSNSで知り合った「韓国人女性」とのやり取りに夢中になり、最終的に暗号資産への投資を持ちかけられました。「彼女」の甘い言葉を信じ、個人口座に計20万円以上を送金しましたが、その後、連絡が途絶えました。西田教授は、このケースでは「返報性」という心理効果が働いた可能性があると指摘します。人は相手からの好意に対して「借りを返したい」と感じ、行動に移してしまうものです。この男性にとって、相手からの好意的な言葉は「借り」として意識され、送金につながったと考えられます。

さらに脳科学の観点からは、詐欺師が提案する「投資の成功」や「結婚」という幸せな未来が、脳内でドーパミンの分泌を促進するため、判断能力が鈍ると指摘されています。「今しかない」と焦らされると、人は冷静な判断を失いやすくなるのです。

2024年上半期のSNS型詐欺による被害額は約660億円に上り、特殊詐欺の年間被害額を上回る規模となっています。政府はSNS事業者に対し、なりすまし広告の削除などを求めていますが、現状では対応が追いついていません。西田教授は「『自分は騙されない』という思い込みを捨てることが最も効果的な対策だ」と強調しています。巧妙化する詐欺に対し、冷静さを保ち、常に疑う姿勢を持つことが必要でしょう。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る

SNSでもご購読できます。

コメントを残す

*