かつて長期政権を築き、メキシコ政治を支配してきた制度的革命党(PRI)が急速にその影響力を失いつつあります。今年6月の大統領選では、野党統一候補が惨敗を喫し、議会選挙でもPRIは議席を大幅に減らしました。与党・国家再生運動(MORNA)のポピュリズム路線が勢いを増す中、これを食い止める有力な勢力は見当たりません。
9月1日、メキシコ国会が開会し、首都メキシコシティ中心部の憲法広場(ソカロ)ではロペスオブラドール大統領による最後の一般教書演説が行われました。大統領は、国民に向けて「国の重要な役職を誰が選ぶべきか」という問いを投げかけ、物議を醸している司法制度改革を含む憲法改正への強い意欲を示しました。
今回の選挙でMORNAを中心とした連立与党は、下院で憲法改正が可能な3分の2超の議席を確保。上院でもわずか3議席足りない状況ですが、他党から協力を得ることで権力掌握が現実味を帯びています。一方、PRIは上院で16議席、下院では35議席にとどまり、連立与党内の小政党である労働党(PT)や緑の党(PVEM)を下回る第5勢力に転落しました。
PRIの前身である「国民革命党」は1929年に結成され、2000年に政権を明け渡すまでの71年間、常に大統領を輩出してきた一党独裁体制を築いていました。しかし、長期政権の裏で汚職体質がはびこり、国民の信頼を失ったことが衰退の一因です。メキシコ大学院大学(COLMEX)のソンレイトネル教授は「今回の選挙では、かつてPRIの支持基盤だった農村部や先住民層がMORNA支持に転じた」と指摘します。
PRIは2000年以降、国民行動党(PAN)に政権を譲り、2012年に一度政権を奪還するものの、2014年にロペスオブラドール氏がMORNAを旗揚げしたことで再び影を潜めました。オブラドール氏はPRIを「汚職と腐敗の象徴」として批判し、2018年の大統領選では圧倒的勝利を収めました。その際、PRIが党内選挙を行わず、前大統領の指名で候補者を決めたことが不透明さを招き、さらなる支持離れを加速させました。
今年の大統領選では、PRIとPAN、民主革命党(PRD)が初めて統一候補を擁立しましたが、結果は大差で敗北。MORNAのシェインバウム前メキシコシティ市長が圧勝し、野党の巻き返しは実現しませんでした。選挙後、PRIのモレノ党首は「史上最高のPRIを再建する」と強気の姿勢を示しましたが、党内からは迷走の責任を問う声も上がっています。
メキシコ政治の勢力図は大きく塗り替えられつつあり、今後の焦点はMORNA主導による憲法改正の成否と、PRIをはじめとする野党勢力がいかに巻き返しを図るかにあります。長期政権を築いた老舗政党の復権か、それとも新たな政治の時代の幕開けか──メキシコの動向に注目が集まります。