韓国で人工知能(AI)を悪用して作成された偽動画、いわゆる「ディープフェイク」による被害が深刻化しています。この技術を使った犯罪は未成年者の被害が多く、加害者も10代というケースが目立ちます。8月28日、こうしたディープフェイク事件の一つで、ソウル大学を卒業した女性を標的にしたわいせつ動画を流出させた男(28歳)に対し、懲役5年の実刑判決が下されました。ソウル中央地裁は「被害者の受けた屈辱は計り知れない」と非難し、厳しい姿勢を示しました。
この事件は5月に発覚し、合成に使われた写真は誰もが入手可能な卒業アルバムやSNSのプロフィール写真などでした。被疑者らは、ソウル大学出身の女性数十人をターゲットに、少なくとも400件以上の偽動画を作成し、オンライン上に流布していました。犯行動機については「ストレス発散のため」と供述していますが、裁判所はこれを断固として否定し、重大なデジタル性犯罪であると指摘しました。
事件の波紋は広がり、他の同様の事例も次々と明るみに出ています。特に問題視されているのは、通信アプリ「テレグラム」を使った拡散の手口です。犯行グループは被害者の年齢や職業ごとに画像を分類し、チャットルーム内で共有していました。一部の報道では、このようなチャットルームに少なくとも22万人ものメンバーが参加していたとされています。
尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は事態を重く見て、8月27日の閣議で「匿名性を盾にした悪質な犯罪行為だ」と厳しく非難しました。また、被害者の多くが未成年であることから、加害者の大半も10代である点を指摘し、「デジタル性犯罪の根絶に向けて捜査を強化する」と明言しました。
警察庁は対応の一環として特別捜査本部を立ち上げ、ディープフェイク犯罪の集中的な摘発に乗り出しています。2024年1月から7月までに認知された関連犯罪の件数は297件に上り、2021年の年間件数156件から倍増しています。警察によれば、AI技術の普及によりディープフェイクの作成が容易になった結果、青少年による犯罪が増加しているといいます。
韓国社会では、こうした事態に対して厳しい目が向けられており、教育現場や家庭でもAI技術の正しい理解と倫理観の育成が急務とされています。また、被害者支援の強化や法整備の見直しも進められるべきだという声が上がっています。AIの急速な発展は利便性を向上させる一方で、新たな犯罪の温床にもなり得るため、技術の進歩に伴う社会的責任が改めて問われています。