2019年6月4日の記事より、気仙沼ニッティングの社長を務める御手洗瑞子(みたらい たまこ)さんの、壮大なキャリアの出発点に焦点を当ててご紹介いたします。御手洗さんは1985年に東京都大田区で生まれ、父は金属加工の中小企業経営者、母は百貨店の商品開発に携わるという、ものづくりとビジネスが身近な環境で育ちました。幼少期は母方の曽祖母に特に懐く**「ひいおばあちゃんこ」で、その死を受け入れるのには時間がかかったという繊細な一面も持ち合わせていらっしゃいます。妹さんと弟さんがいる御手洗家では、夏休みの子どもたちの過ごし方を考えたお母様のご配慮で、御手洗さんは早くから国際的な体験**を積むことになります。
御手洗さんが小学5年生のとき、初めて**「国際子どもキャンプ」に参加し、ポルトガルで12カ国から集まった同年代の子どもたちと約1カ月間の共同生活を送りました。この経験は「とても楽しい思い出」として、彼女の異文化理解の土台を築きました。しかし、中学3年生で参加したドイツでのキャンプでは状況が一変します。思春期を迎え自意識**が強くなった参加者たちをまとめるのは容易ではなく、成り行きでまとめ役の一人となった御手洗さんは、参加者がキャンプを抜け出し警察沙汰になるなど、困難な事態にも直面しました。こうした経験が、後の彼女のリーダーシップや問題解決能力の萌芽となったと言えるでしょう。
この国際キャンプでの繋がりは深く、キャンプ後も交流は続きました。大学時代にバックパックで世界を旅した際には、これらの友人の家を泊まり歩いたそうです。この体験は、御手洗さんの**「遠い世界への想像力」**を育むことに繋がります。例えば、スペインの山火事のニュースを見ると「イザベラの国だ」と友人の顔が浮かぶといいます。また、友人がいない国に対しても「そこには私と同年齢の子がいる」という意識を持つようになり、地球規模での共感性を高めていきました。
彼女の価値観に大きな衝撃を与えた出来事が、2001年の米同時多発テロです。倒壊する高層ビルの映像はもちろんですが、それ以上に、テロを見て跳び上がって喜ぶアラブの子どもたちの姿をテレビで見たとき、大きなショックを受けました。彼女には中東にも友人がいたため、自分の知らないところで存在する**「価値観の深い対立」に思いを至らせたのです。この対立から「目をそらすのはいけない」と決意し、世界の現実をもっと知って、対立を生まないためにどうすべきかを考えようと心に誓います。これは、後に彼女が取り組む地域社会の課題解決**の根幹をなす精神と言えるでしょう。
世界を知るための土台作り:経済学と途上国支援の実践
世界で起こる現実への問題意識から、御手洗さんは東京大学へ進学し、奥野正寛先生のもとで経済学の基礎を深く学ばれました。経済学とは、限りある資源を効率的に配分し、人々の生活を豊かにするための仕組みを研究する学問です。彼女が個人的に関心を寄せていたテーマは、発展途上国の持続的な発展でした。これは、援助に頼るだけでなく、その国や地域が自立して豊かになり続けるための方法を考えるという、より本質的な問いです。
その関心を高めるため、大学1年生のときには、川人博先生の講義の一環で、途上国の農村指導者を養成するアジア学院(栃木県那須塩原市)にボランティアとして参加されました。当初は大勢で参加したものの、御手洗さんはこの活動に強く惹かれ、その後は休みがあるたびに一人で住み込むようになりました。フィリピンやスーダンといった様々な国の農村の村長や学校の先生が、農業技術を学びに来ており、彼女はそこで熱心にお手伝いをします。
アジア学院での生活は、朝からラジオ体操を行い、一日中ニンジン畑の雑草抜きや牛・豚の世話をするという、農作業中心の日常でした。食事は当番制だったため、毎日異なる国の料理を味わうことができたそうです。共通語は英語でしたが、英語ネイティブは誰もいない環境で、参加者同士が知恵を絞ってコミュニケーションを取り合う相互扶助の精神を学びました。ここで彼女は、実体験に基づく途上国の厳しい現実や、それを乗り越えようとする人々の強さに触れることができました。
しかし、ボランティア活動を通じて、学生の自分ができることには限りがあると痛感します。「自分が力をつけないと人の役には立てない」と考え、人の役に立つには経済やビジネスがどう動くかを理解する必要があると結論づけます。この考えのもと、御手洗さんは世界的な大手コンサルティング会社であるマッキンゼー・アンド・カンパニーに就職されました。ビジネスの最前線で、世界の経済の仕組みと実態を学び、真に人を助ける力を身につけるという、彼女の揺るぎない決意が感じられます。SNSでも「東大卒でマッキンゼーというエリートコースを選びながら、最終的に途上国支援ではなく日本の被災地支援に向かったことに、並々ならぬ情熱を感じる」といった声が寄せられており、彼女の選択に対する共感と期待の高さが伺えます。