写真家・今森光彦さんが手がける「日本の里山」をテーマにした個展が、現在、東京都写真美術館で開催されています。その写真展では、日本各地200カ所以上を巡り撮影された四季折々の美しい風景が展示されており、まるで自然と人間の共作が織りなすアートのようです。今森さんはこれらの風景を「未来にこそあるべき風景」と語り、その奥深い思いを写真に託しています。
作品には、羽を休めるギフチョウや朝霧に包まれた棚田、緑が眩しい畑など、見る者の心を癒しつつも考えさせられるような光景が収められています。40年以上前から故郷・琵琶湖周辺の里山を記録し続けてきた今森さんですが、全国規模での取材を始めたのは20年前のことでした。「日本の里山が危機に瀕していると感じ、もっと広い視点でその状況を捉えなければならないと思った」と語る彼の決意が、写真一枚一枚から伝わります。
里山は、人と自然が共存し調和する特別な空間です。しかし、この言葉が広く知られるようになったのは比較的最近のことで、かつては専門用語に過ぎませんでした。1992年に雑誌で連載した「里山物語」をきっかけに、この言葉とその価値を社会に浸透させた今森さんは、里山の「伝道師」ともいえる存在です。
里山の風景の中で特に注目すべきは棚田でしょう。山間部に広がるこの水田は、水辺の生態系を育む楽園であり、人と自然の営みが生む奇跡そのものです。学⽣時代にインドネシアで棚田の風景に出会った彼は、それが日本の里山を撮影するきっかけになったといいます。そんな棚田は、自然と人間がともに手を取り合って作り上げた象徴ともいえる存在です。
また、彼の作品には、自然だけでなく人々の暮らしや文化も描かれています。農作業をする人々や地域の祭りなど、自然と共に育まれてきた歴史と文化の温もりを感じることができます。「自然の循環の中で生きる人々の姿には美しさがある」と語る今森さんの視点は、里山の魅力をより深く掘り下げています。
日本の里山には、古来からの自然観や信仰が息づいています。神社や寺、石仏など手入れされた景観は、土地への愛情の結晶です。しかし近年では、人口減少や高齢化が進む中で里山は荒廃の危機に直面しています。それでも、今森さんは30年前から自身のアトリエで「オーレリアンの庭」と名付けた里山を模した庭造りを始め、雑木林やため池、畑を復活させてきました。「手を入れれば自然は応えてくれる」という彼の信念が、そこに息づいています。
今森さんが見据えるのは、里山を「過去の風景」ではなく「未来の風景」とすることです。「里山には生命力がある。失われたように見えても、種火のようにその力は残っている。手を加えれば再生する可能性は十分にある」と話す彼の言葉は、未来への希望に満ちています。里山という日本独自の風景を守り、次世代に繋いでいく彼の取り組みは、多くの人々にとって大きなインスピレーションとなるでしょう。
この展示会は、SNSでも「癒される」「未来へのメッセージを感じる」などの反響が広がっており、訪れた人々の心に強く響いています。自然と人の調和が生み出す美しさを、ぜひあなたの目で確かめてみてはいかがでしょうか。