2024年6月11日、小林製薬の取締役会が大阪・道修町の本社で行われました。その議題は、紅麹サプリメントの摂取を巡り、消費者の健康被害と死亡事例が増加しているという深刻な報告でした。取締役会では、公表の是非を巡って議論が紛糾し、最終的な結論には至りませんでした。創業家出身で当時会長を務めていた小林一雅氏(84)は、メディア報道が過熱することを懸念し、公表に否定的な立場を示していました。
紅麹サプリの健康被害は、消費者が腎障害を訴え、死亡事例が100件を超える事態に発展していました。それにもかかわらず、最初の症例が把握されたのは2024年1月、しかし公表に至ったのは同年3月22日と、2カ月以上の遅れが生じました。この間、会社内では情報が共有されていたものの、「因果関係が不明」と判断され、行政への報告や製品回収といった対応が取られることはありませんでした。この対応の遅れは、消費者や社会に対して企業としての責任を果たしていないという厳しい印象を与えました。
外部弁護士による事実検証委員会の報告書が2024年7月23日に公表され、問題の背景に同族経営の弊害や意思決定の不作為があったことが明らかになりました。創業家が株式の約3割を保有し、圧倒的な影響力を持つ一雅氏は、長年にわたりヒット商品を生み出し、小林製薬を消費財メーカーとして成長させた功労者です。しかし、その権威が社員の間で反対意見を言いにくい空気を生み、結果として問題への対応が遅れる要因となったのです。
8月8日、新社長に昇格した山根聡氏(64)は記者会見で、同氏の顧問料が月額200万円に設定された背景を「本人の提案」と説明しましたが、その額を巡る批判も相次いでいます。同じく7月23日に会長職を退いた一雅氏の影響力を完全に排除することは難しい状況が続いています。
SNS上では、「企業の透明性が問われている」「創業家の影響力が過剰」といった批判的な意見が目立ちます。一方で、「製品への信頼を回復するには時間がかかるだろう」という冷静な分析も寄せられています。
小林製薬の紅麹サプリ問題は、同族企業の意思決定の脆弱性と、有事における迅速な対応の重要性を浮き彫りにしました。経営の正常化には被害者への補償、原因究明、そして再発防止策の徹底が不可欠です。この問題から私たちが学べる教訓は、企業の規模が拡大する中での透明性や意思決定プロセスの健全化の重要性ではないでしょうか。経営が抱える課題に正面から向き合い、信頼を取り戻すための改革が求められています。