⚖️法務DX時代の必須知識!「リーガルテック」が変える契約書点検の常識と、日本が抱える課題を徹底解説

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近年、テクノロジーが法律業務の世界、すなわち「リーガルテック」に革新をもたらそうとしています。これは、人工知能(AI)などの技術を活用し、契約書のチェックといった定型的な作業を機械に任せることで、人間がより高度な判断や戦略的な業務に集中できるようにする動きです。しかし、日本の法務インフラのデジタル化は欧米諸国に比べて遅れており、このままでは世界の潮流から大きく取り残されてしまうかもしれません。

たとえば、スタートアップのリーガルフォース(東京・中央)は、2019年4月より契約書のAI点検サービスを開始しました。これは、これから締結する契約書をAIが読み込み、自社にとって不利になる可能性のある抜けや漏れ、あるいは追加すべき適切な条文例などを自動で提案してくれるというものです。契約締結前に、不利な条項や将来的な紛争リスクを取り除く作業は、企業の法務部門や弁護士にとって欠かせない主要な業務の一つですが、AIの活用はこれを劇的に効率化します。

AIによる点検では、契約の種類に応じた自社や他社の過去の契約書データを学習させ、新しい契約書と照合します。特に秘密保持契約(NDA)のような定型的な契約書はAIによるチェックと相性が良く、人間が数十分かける作業をわずかな時間で完了させることが可能です。サントリーホールディングスは、日本語の契約書点検にリーガルフォースのサービスを導入した一例です。同社の法務部長が扱う契約書は年間1,200件にも上り、そのうち6~7割が秘密保持といった定型契約であることから、これまでの「勘と経験、書籍、上司の目」に頼っていたチェック作業を、AIが相当程度代替できると期待が寄せられています。

海外では、このAI点検が既に先行しています。イスラエルのローギークスが2018年に公表した「人間対AI」の比較実験は、その驚異的な能力差を明確に示しています。ベテラン弁護士20人の平均所要時間が92分で正答率が85%だったのに対し、AIはわずか26秒で94%の正答率を達成しました。この圧倒的なスピードと正確性から、米国ではすでに大企業の3分の1が契約書のAI点検を導入しているという調査結果も出ています。SNSなどでも「日本のビジネスもスピードアップが求められる中で、この差は致命的だ」「リーガルテックの導入はもはや必須だろう」といった、日本の遅れに対する危機感を示す反響が目立っていました。

リーガルテック普及を阻む「印鑑・郵送」の壁とデータ量の格差

しかし、日本発のリーガルテックが普及するためには、いくつかの大きな壁が存在します。米国を中心に英語圏では、リーガルテックを提供する企業が1,000社近くあるのに対し、日本国内ではまだ数十社程度と選択肢が限られています。日本の法律事務所でも、森・浜田松本法律事務所の飯田耕一郎弁護士が語るように「定型作業にテックを導入する」動きは増えていますが、その使えるツールが少ないのが実情でしょう。

この英語圏の先行の背景には、日本が抱える二つの大きな課題が浮かび上がってきます。一つ目は、企業の経営における法務部門の存在感の差です。米国では弁護士資格を持つ法務担当役員が経営陣にいることが一般的で、法務部員や社内弁護士の数も多いため、それを支えるテック市場も自然と大きくなります。二つ目は、法務インフラのデジタル化の遅れです。例えば、日本の裁判所がいまだに訴状や証拠の提出を対面やファクス、つまりほぼ「紙」で行っているのに対し、米国では裁判の判決公開やIT手続きが普及しています。

また、ネット上で契約を締結する電子契約の利用は、弁護士ドットコムのサービス利用企業数が4万社を超え、少しずつ浸透を見せています。しかし、日本の企業法務の現場には「印鑑を押して、郵送でやり取りする」という伝統的な文化が根強く残っているのも事実です。大企業からも「デジタル化の必要性は理解しているが、長年続く社内の手続きや慣習を変えるのに時間がかかる」という声が上がっており、これは単なる技術導入の問題ではなく、企業文化そのものの変革が求められることを示唆しています。

さらに、AIの学習に不可欠なデータ量にも大きな差があります。リーガルフォースや同業のGVA TECH(東京・渋谷)は、日本の協力企業を募り契約書データを収集して開発を急いでいる状況です。一方で、英語圏では米上場企業の重要な契約書がもともと開示対象となっており、実際のデータを容易に確保できるという好条件が整っています。最近では、米国のAI点検サービス企業シールソフトウエアが、電子契約で世界最大手の米ドキュサインと提携し、180カ国以上、45万社を超える顧客が持つ膨大な契約書データという「お宝」を手に入れました。このデータ量の格差は、AIの進化速度に直結するため、日本の企業競争力を左右しかねない深刻な問題だと私は考えます。

迫られる法務DXへの「倍速」取り組み

法務のデジタル化の遅れは、日本の国際競争力にも影響を及ぼしています。世界銀行の調査によると、2019年時点での日本の司法の利便性は、経済協力開発機構(OECD)加盟国の中で25位と低い水準にとどまっています。この背景には、訴状や証拠の提出が対面やファクスに頼っている裁判手続きの非効率性があります。世界から取り残されるという強い危機感に押され、国もついに動き出しました。2020年2月からは一部の裁判所で、争点整理にクラウドサービスが利用できるようになる見込みです。

しかし、訴状や証拠の提出といった手続きの全面的な電子化には、民事訴訟法などの改正が必要であり、本格的な運用開始は法制審議会を経て2022年以降になると見込まれています。日本が年単位で法改正に着手している間に、ネット上の手続きが浸透している米国をはじめとする海外諸国はさらに先行してしまうでしょう。AIやリーガルテックの活用は、単なる業務の効率化や生産性の改善にとどまらず、グローバルな紛争解決や法令順守が必須とされる現代において、日本企業の競争力を支える重要なインフラになります。このビジネス環境の差を縮めるためには、日本は海外のスピードに追いつくどころか、「倍速」で法務DXに取り組む必要に迫られていると言えるでしょう。

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