1987年10月19日、後に「ブラックマンデー」と呼ばれるアメリカ株式市場の大暴落が発生しました。ダウ工業株30種平均は1日で前週末比22%もの下落を記録し、1929年の大恐慌を超える衝撃を与えました。この暴落は金融市場や経済全体に重大な影響を及ぼし、「質への逃避」という市場心理を学んだ経験でもありました。
そんな過去を振り返るきっかけとなったのが、2023年8月5日に起きた日経平均株価の急落でした。新聞には「下げ幅ブラックマンデー超え」という見出しが踊りましたが、株価は2週間で回復し、世界的な経済危機には至りませんでした。この出来事をきっかけに、株価暴落と中央銀行の関係について考えさせられました。
ブラックマンデーの際、アメリカのグリーンスパンFRB議長が翌日に発表した「流動性供給の用意がある」という声明は市場を安定させる契機となり、その後の政策転換と利下げが危機を収束させました。この対応から生まれた「グリーンスパン神話」は市場の信頼を集めましたが、一方で中央銀行が市場を過度に支えることでバブルを助長したとの批判もあります。その後のリーマン・ショックの遠因となった住宅バブルを振り返ると、中央銀行の政策が持つ二面性を感じざるを得ません。
2023年の日本株暴落時も日銀への注目が集まりました。円売りポジションの巻き戻しやアメリカ雇用統計の悪化、ハイテク株の下落など複数の要因が絡む中、日銀の利上げ決定が市場心理を揺さぶった一因とも見られました。内田真一副総裁が「金融市場が不安定な状況では利上げをしない」と説明し、ひとまず市場は安定しましたが、このような対応が次なる市場変動の種をまくリスクも指摘されています。
振り返れば、1987年のブラックマンデー後、日銀が長期の金融緩和に踏み切った結果、日本では株式・不動産バブルが形成されました。さらに、2013年に始まった「異次元緩和」は円安や株高をもたらしましたが、長期化する中でその負の側面も顕在化しています。
今後の政策の行方に注目が集まる中、金融政策と政治の関係も再び焦点となっています。11月のアメリカ大統領選や9月27日の自民党総裁選を控え、政治家の間で中央銀行への圧力が高まる可能性があります。例えば、トランプ前大統領がFRBの政策に発言権を持つべきだと主張したり、安倍元首相が大胆な金融緩和を提案した過去もその一例です。
中央銀行は市場と適切な距離感を保つことが求められます。市場を過度に支えれば次の危機を招き、逆に放任すれば経済への打撃を招く可能性があります。この難しいバランスの中、金融政策の独立性を守りつつ、長期的な視点で政策を進める必要があります。
「暴落の夏」を経て、2023年秋は「選択の季節」となるでしょう。各国の中央銀行がどのように市場と向き合い、経済を導くのか、その手腕が試される重要な時期になることは間違いありません。