円キャリー取引が生むリスク—FX投資家が直面する円高地雷とは

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ここ数年、大幅な円安の背景にあった円キャリー取引は、2023年8月上旬の市場混乱の一因ともなりました。海外投機筋による円キャリー取引の巻き戻しが進む中で、現在は一部落ち着きを見せています。しかし、その背後で、日本の個人投資家が行う外国為替証拠金取引(FX)による新たな円キャリー取引が増加傾向にある点が注目されています。この動きが将来的に「円高地雷」となる可能性を秘めており、警戒が必要です。

円キャリー取引とは、低金利の円で資金を調達し、高金利のドルなどに投資する取引を指します。かつては、アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)の利上げと日本銀行の金融緩和政策による金利差が背景となり、海外投機筋が積極的に円キャリー取引を行っていました。しかし、2023年夏以降、アメリカ経済の後退懸念による利下げ期待と、日本銀行の利上げ姿勢が交錯した結果、投機筋の取引は一時的に縮小し、円買いが優勢になりました。一方で、日本国内のFX市場では、円売り・ドル買いのポジションが増加傾向にあります。

2023年7月10日時点では、FX市場全体で円の買い越しが見られましたが、その後は売り越しへと転換。ドル円ポジション全体に占める円売りの割合は一時60%を超え、足元でも50%以上を維持しています。この動きは、海外投機筋が市場の流れに従う「順張り」を好むのに対し、日本の個人投資家が市場に逆らう「逆張り」を得意とする特性に起因しています。過去1カ月半の円高基調を受け、個人投資家が逆張りで円キャリー取引を増やしているのです。

FX市場の影響力は無視できません。2022年4月時点で、国内の全スポット為替取引の約20%が個人投資家によるものであると日本銀行の報告書は指摘しています。この規模が市場全体に与える影響は大きく、特にロスカット(一定の損失が出た際に自動的に反対売買を行う仕組み)が関与すると、さらなるリスクを孕む可能性があります。円高が急速に進行すれば、ロスカットが連鎖的に発動され、円相場の上昇に拍車をかける展開が予想されます。これは、リーマンショック時の市場混乱でも見られた現象です。

今後の為替市場では、日本銀行の利上げが続く一方、アメリカが利下げを行う可能性が高まり、円高圧力がかかりやすい状況が続くと見られます。しかし、日銀の利上げ幅には限界があり、またアメリカ経済が深刻な景気後退に陥らなければ、急激な円高は起こりにくいという見方も少なくありません。それでも、個人投資家が逆張りによる円売りを拡大すれば、潜在的な「円高地雷」がより大きな影響を与える可能性があります。

SNS上では、「FX投資家の逆張り行動がリスクを増幅させている」「ロスカット連鎖の危険性に注意すべき」といった声が多く寄せられています。市場の不確実性が高まる中、個人投資家だけでなく金融政策当局や市場関係者も、こうした潜在的なリスクに目を光らせる必要があるでしょう。円相場の未来を見据える上で、この「地雷」の存在を軽視することはできません。

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