英国では、中央銀行であるイングランド銀行(BOE)の量的引き締め(QT)が政府財政を圧迫しています。特に、国債売却による損失補填が、政府の財政支出増を招いている点が大きな問題です。量的緩和を背景に進められてきたこれらの政策は、英国の金融政策の正常化を困難にし、さらには日本銀行を含む他国の中央銀行にとっても教訓となる内容を含んでいます。
労働党のスターマー首相は、2023年8月27日に発表した初の予算案で、財政悪化の影響について言及しました。これを受けて、英国の長期金利は1カ月ぶりに約4%に上昇しています。その背景にあるのが、BOEのQTに伴う巨額の損失です。同銀行は、リーマン・ショック後の2009年に開始した量的緩和によって大量に買い入れた国債を売却し始めましたが、政策金利の急激な引き上げに伴い、国債価格が下落し、多額の売却損が発生しているのです。
英国政府は、BOEの損益を四半期ごとに補填するルールを定めており、2022年10月から2024年6月までの間に、約609億ポンド(約11兆6,500億円)を財政支出で補填しました。これにより、年間予算の5%に相当する追加負担が発生しています。BOEは、現在のペースでQTを進める場合、2034年までに約1,000億ポンドの純損失を計上する可能性があると試算しています。
英国がこうした財政的ジレンマに陥った理由の一つは、量的緩和の長期化です。2016年にEU離脱の国民投票が行われた際、景気後退懸念から国債買い入れが再開され、さらに2020年の新型コロナウイルス感染拡大で買い入れ枠が拡大しました。BOEは償還による自然減では保有残高を十分に削減できず、QTによる国債売却を進めざるを得ない状況にあります。
この状況に対し、米連邦準備制度理事会(FRB)が採用している「損失の繰り延べ」方式が英国にとっても有力な選択肢として挙げられています。FRBでは、損失を将来の利益で相殺する仕組みを導入しており、BOEがこれを採用すれば短期的な財政負担を軽減できる可能性があります。しかし、こうしたルール変更は「ゲームの途中でルールが変わった」と受け取られかねず、市場の信頼を損ねるリスクも伴います。
日本でも、日本銀行が抱える国債の利息収入を超過準備への支払いが上回る「逆ざや」問題が懸念されています。2023年度上期の試算によると、日銀が政策金利を0.6%まで引き上げれば経常赤字に、2.8%まで引き上げれば債務超過に陥る可能性が指摘されています。万が一債務超過となれば、日銀に公的資金を注入する必要が生じる可能性があり、財政への影響は避けられません。
SNSでは、「BOEのQTが生む財政負担は他国への警鐘」「日銀も似たリスクを抱えているのでは」といった声が広がっています。各国の中央銀行が金融緩和から脱却する道のりは、険しく複雑です。日本も含め、金融政策の選択肢とその影響を慎重に検討する時期に来ています。英国の例は、こうした課題を再認識させる重要な教訓と言えるでしょう。