2023年6月、証券取引等監視委員会が大量保有報告書の未提出や虚偽記載を理由に、企業と個人の3者に対し計98万円の課徴金を課すよう金融庁に勧告しました。この摘発は、大量保有報告規制違反のみを対象とした日本初のケースとして注目を集めました。その後、8月末に金融庁が納付命令を発令。この動きは、いわゆる「ウルフパック戦術」に対する強力なけん制となり得るとして専門家の間で評価されています。
今回の事例は、電線事業などを展開する三ッ星の株式取得を巡るもので、2021年から2022年にかけて、シンシア工務店、和円商事、その代表者の3者が三ッ星株を5%超取得しました。しかし、大量保有報告書を期限内に提出せず、保有株数や割合について虚偽記載があったとされています。この動きは、複数の投資家が協調して株を買い集め、企業の経営権を狙う「ウルフパック戦術」の典型だと専門家は指摘しています。
ウルフパック戦術は2000年代に米国で注目された手法で、近年、日本でも似た動きが散見されるようになりました。これまで日本は大量保有報告規制違反の取り締まりが緩く、こうした戦術がとられやすい環境にあったとされますが、今回の摘発は新たな局面を迎えたと言えるでしょう。
三ッ星の事例では、2022年10月の臨時株主総会で取締役が一斉に交代し、投資ファンド「アダージキャピタル」の推薦メンバーにより経営支配権が移転しました。当時、複数の投資家による協調的な株式取得が疑われており、三ッ星側はこれをウルフパック戦術と主張して買収防衛策を講じました。結果的に防衛策は裁判所に差し止められたものの、裁判所は6者の協調行為の可能性を否定しませんでした。この6者には、今回摘発された3者が含まれていたとみられています。
しかし、和円商事は「形式的な違反が問題視されただけであり、ウルフパック戦術そのものが摘発されたわけではない」とコメントしています。一方で、日本の課徴金額が抑止効果として十分であるかどうかには疑問の声もあります。米国では制裁金が数十万ドルに上ることも珍しくなく、専門家からは「日本の課徴金額の低さや摘発件数の少なさは課題だ」との指摘が相次いでいます。
また、欧州や韓国では、大量保有報告規制違反を行った株主の議決権を停止する制度が存在しますが、日本ではこうした制度がまだ実現していません。さらに、株主の透明性を確保するため、一定割合以上の株式を保有する株主に対し、実質的支配者を開示する制度の導入を求める声も高まっています。
SNS上では「日本でもようやく規制が厳しくなる兆し」「企業防衛に役立つ動きだ」といった意見が飛び交い、今回の摘発が投資家行動に与える影響に注目が集まっています。今回の事例を契機に、日本の投資環境がより透明で公正なものとなることが期待されます。この新たな取り組みが、国内市場の信頼性向上に大きく寄与するでしょう。