学校教員の人材不足が深刻化する中、中央教育審議会（中教審）が待遇改善や働き方改革を柱とする総合対策を2024年7月に答申しました。教員の長時間労働が「ブラック職場」と呼ばれるほど常態化し、2022年度の公立小学校教員採用試験では競争倍率が過去最低の2.3倍に落ち込む現状を受け、抜本的な改革が求められています。
答申の目玉となったのは、教員の待遇改善です。現在、残業代の代わりに基本給の4％を上乗せする「教職調整額」を10％以上に引き上げる提案が盛り込まれました。これが実現すれば、教職員給与特別措置法（給特法）の50年ぶりの改正となります。ただし、専門家や教員からは残業時間に応じた支払いへの抜本的な改革を求める声も根強くあります。名古屋大学の内田良教授は「残業代の導入が労働時間削減への本気度を高める」と指摘し、給特法の廃止を訴えています。
答申では、教員の業務範囲について「精緻に切り分けることは困難」とし、現行の枠組みを維持する方針が示されましたが、これに対しては多様な意見が寄せられています。教育関連の23団体が中教審の対策実現を求める要請文を提出する一方、日本教職員組合（日教組）も待遇改善の重要性を認めつつ、抜本的改革の必要性を強調しました。
さらに、働き方改革と学校運営の改善も重要な柱として掲げられています。勤務間インターバルやテレワークの導入、校務のデジタルトランスフォーメーション（DX）の推進が盛り込まれ、効率化と負担軽減を図る狙いがあります。また、2025年度には小学校の3・4年生への教科担任制拡大、2026年度には中堅教員向けの新たなポスト配置が予定されており、学校運営の質向上が期待されています。
しかし、待遇や制度改善だけでは課題は解消しきれません。多くの教員志望者が教育実習後に夢を断念する現実が示すように、出産や子育てへの配慮など、教職を時代に合った働き方に変えていく必要があります。特に、女性受験者が減少している現状は大きな課題です。
その打開策として重要なのが、取り組みの「見える化」です。中教審の答申は残業時間削減について「将来的に」と記すにとどまりましたが、数値目標の設定や達成度のチェックを段階的に行い、進捗を明確にする必要があります。
社会全体の理解と協力も欠かせません。保護者や地域が学校や教員を支える意識を持つことが、改革の成否を左右します。文科省が実施したパブリックコメントには1万8000件を超える意見が寄せられ、社会の関心の高さが伺えます。この改革を成功させるためには、国、学校、地域、保護者が「当事者」として意識を共有し、行動を起こすことが鍵となるでしょう。
教職の魅力を再構築し、未来を担う子どもたちに質の高い教育を届けるために、今こそ社会全体で改革を後押しする時です。SNSでも「教員の働き方改革が教育の質向上につながる」といった意見が多く見られ、変化への期待が高まっています。この動きを一過性で終わらせることなく、長期的な取り組みとして定着させることが求められます。