⚖️米国で死刑廃止の波が拡大!保守派も動かす「コストと冤罪」のリアル:2019年最新動向を徹底解説

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2019年6月現在、アメリカ合衆国では、死刑を廃止したり、執行を一時的に停止するモラトリアムを導入したりする動きが急速に広がり、大きな注目を集めています。死刑判決や実際の執行件数も減り続けている状況です。この背景には、殺人件数の減少といった社会的な要因に加え、死刑にかかる莫大な費用や、取り返しのつかない冤罪、つまり無実の人に誤って有罪判決を下してしまうリスクへの懸念から、なんと保守派の政治家や活動家までが死刑反対の立場に転じているという、極めて興味深い政治的な変化があります。しかしながら、犯罪被害者のご遺族や警察関係者の中には、極刑、すなわち最も重い刑罰である死刑の必要性を強く訴える声も根強く、この問題はアメリカの世論を真っ二つに分ける熱い議論となっています。

特に、米東部のニューハンプシャー州では、この動きが鮮明になりました。2019年5月23日、州下院は、上下両院で可決されたにもかかわらず、クリス・スヌヌ州知事(共和党)が拒否権、つまり法案の成立を拒否する権利を発動した死刑廃止法案について、3分の2以上の賛成を得てその拒否権を覆しました。続いて5月30日には上院も同様に知事の拒否権を覆したため、同州はアメリカで21番目に死刑を廃止した州となったのです。この結果は、長年にわたり廃止運動を続けてきた人々にとって、大きな勝利と言えるでしょう。

十数年にもわたり法案成立を目指し尽力してきたレニー・クッシング下院議員(民主党)は、採決に先立ち、「死刑は被害者のためにも、社会のためにも決してならない。今こそ廃止するべき時だ」と、一言一言に力を込めて訴えました。クッシング議員自身、約30年前に父親を殺害されるという辛い経験をしています。友人から「犯人を早く電気いすにかけてしまえば、少しは心が安らぐだろう」と言われた時、彼女は言葉を失ったといいます。そして、「父を奪った者に、私の価値観まで奪われてたまるか。もう一人殺したところで、心が安らぐことなどありえない」との強い思いから、死刑反対の運動を始めました。クッシング議員は、同じように考える被害者家族は決して少なくないと述べています。

ニューハンプシャー州で死刑廃止が実現した背景には、一部の共和党議員が賛成に回ったという、従来の枠組みを超えた動きがありました。「州議会で最も保守的である」と自認するジョン・レーガン上院議員も、かつては死刑支持派でした。しかし、「税金を食い潰すばかりの行政に、人の生き死にという最も重い決定を任せることはできない」と、政府に対する不信感から反対へと立場を変えたのです。また、死刑囚の無実が証明されたり、終身刑の受刑者が改心、つまり心を入れ替えるといった事例を関係者から直接聞いたことも、彼の考えを変える大きなきっかけとなりました。

民間団体「死刑情報センター」のデータによると、2000年以降、ニューハンプシャー州を含めて13州が死刑を廃止するか、または一時凍結しています。死刑の執行数は、1999年の98人をピークに減少し続け、昨年、2018年は25人にまで激減しました。また、死刑判決の件数も、1990年代には年間約300件あったものが、この数年では年間50件以下と大幅に減少しています。世論調査会社ギャラップの調査では、死刑を支持するアメリカ国民の割合は、1994年の**80%から、2018年10月時点では56%**へと大きく減少しており、国民の意識の変化が浮き彫りになっています。

同センターのロバート・ダナム所長は、死刑廃止の動きが拡大している要因として、全米的な殺人事件件数の減少に加え、1973年以降、現在までに160人以上もの死刑囚の無罪が確定した事実や、死刑がある全ての州で「恩赦なしの終身刑」、つまり仮釈放の可能性が一切ない終身刑が導入されたことを挙げています。さらに、2008年の金融危機以降、財政保守派が死刑のコストに目を向け始め、また、中絶反対の立場の保守派も「人命尊重」という同じ理念から死刑に反対するようになったと分析しています。

保守派が動く理由:死刑が政府の理念に反する?

民間団体「死刑を懸念する保守派」によると、昨年、2018年に死刑廃止法案を提案した共和党の州議会議員は27人に上り、これは2000年の4人と比較して急増しています。さらに今年も、ワイオミングやケンタッキーなどの保守的な州で、共和党議員が法案を提出している状況です。

同団体のハンナ・コックス事務局長は、「私たちは共和党員として、政府の役割の制限、財政規律、そして人命の尊重という3つの理念を掲げています。死刑制度は、残念ながらこのいずれの理念にも反している」と強く訴えます。彼女の説明によれば、死刑を求刑する裁判は、長期化しやすく、そのため費用がかさむ傾向にあります。また、死刑囚の収監には、より厳重な警備が必要となり、その費用も高額になります。その結果、死刑は終身刑などに比べて10倍近くの費用がかかるとの調査結果もあるそうです。死刑情報センターのデータでは、例えば1992年のテキサス州での調査で、死刑にかかる費用は一人あたり平均230万ドル(当時のレートで約2億5千万円)となり、禁錮40年の場合の約3倍にも達していたということです。

コックス事務局長は、さらに「死刑制度が存在する州の方が犯罪率が高いなど、死刑に犯罪抑止効果、すなわち犯罪を未然に防ぐ効果がないことも、数多くの調査で明らかになっています。であるならば、その予算を犯罪を防ぐためのプログラムに回すべきでしょう」と強調しています。コックス氏自身も、以前は死刑支持派でしたが、「インターネットを通じて情報やデータを入手できるようになり、私のように考えを改める保守派が増えているのではないでしょうか」と語っています。

根強い反対意見と大統領選への影響

一方で、死刑廃止の動きに強く反対する意見も根強くあります。ニューハンプシャー州のスヌヌ知事は、拒否権を発動する際、同州で唯一の死刑囚に殺害された警察官のご家族や警察官に囲まれながら、「この死刑廃止法案は、正義に反する」と訴えました。また、拒否権を覆すための採決の際には、「もし州内でテロが発生し、多数の犠牲者が出た場合、どのように対処するのか」と、声のトーンを上げて死刑の正当性を主張する議員もいました。実際、下院での採決はわずか1票の僅差で決着しており、この問題がいかに拮抗した議論であるかを物語っています。

現職のドナルド・トランプ大統領は、2019年3月に死刑の執行凍結を決めたカリフォルニア州の知事を公然と非難しました。さらに、麻薬密売人にも死刑を適用すべきだと主張するなど、死刑支持の姿勢を明確にしています。対照的に、来年の大統領選挙に向けて名乗りを上げている民主党大統領候補のほとんどは、死刑の廃止や凍結を支持する立場を取っています。このことから、この死刑制度を巡る議論は、来たる2020年の大統領選挙において、主要な争点の一つとなる可能性が高いでしょう。

改めて知るアメリカの死刑制度の現在

アメリカの死刑制度は、1970年代に最高裁判所の違憲判決によって一時的に全米で廃止されましたが、1976年の合憲判決を受けて復活しました。死刑情報センターの統計では、2019年6月現在、29州(うち4州は執行を凍結中)と連邦政府、そして米軍に死刑制度があり、21州とワシントン特別区には死刑が存在していません。また、白人よりも黒人の方が死刑判決を受けやすいといった、深刻な人種格差の問題も長年指摘されており、制度の根本的な公平性が問われ続けている状況です。

私個人の意見としては、冤罪の可能性が少しでもある以上、不可逆的である死刑制度の適用には、極めて慎重になるべきだと考えます。費用対効果や抑止力の有無、そして何よりも人命の尊厳という観点から、死刑を廃止する州が増えているという流れは、世界の潮流にも沿った、人権意識の成熟を示す動きだと捉えることができます。しかし、被害者感情や社会の安全に対する切実な願いも理解できるため、この問題の解決には、被害者支援の充実や、再犯防止のためのプログラムへの投資など、社会全体での多角的な取り組みが不可欠だと信じています。アメリカのこの動きが、今後の世界の死刑制度の議論にどのような影響を与えるのか、引き続き注目していくべきでしょう。

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