世界経済の行方を左右する米中の貿易戦争が、私たちの身近な産業界にも暗い影を落とし始めています。2019年07月14日現在、国際的な貿易の停滞によって行き場を失った素材がアジア市場に溢れ出し、その影響で国内の素材価格が大幅に下落するという事態に直面しているのです。まさに、グローバルな政治の駆け引きが、日本の現場を揺るがしていると言えるでしょう。
特に顕著な動きを見せているのが、お隣の中国から流入する鋼材の急増です。統計によれば、2019年01月から2019年05月までの中国産鋼材の輸入量は、驚くべきことに前年の同じ時期と比較して73%も膨らんでいます。これほどまでに大量の製品が日本へ流れ込んでいる背景には、輸出先を失った中国企業が、近隣の日本市場へ活路を求めているという切実な事情が透けて見えます。
こうした状況を象徴するのが、国内における在庫水準の異常なまでの高まりではないでしょうか。とりわけ海外製品の流通が盛んな「薄鋼板(自動車や家電のボディに使われる薄い鋼の板)」の在庫は、2019年05月末の時点で462万トンにまで達しました。この数字は実に10年ぶりの高水準であり、市場がいかに飽和状態にあるかを如実に物語るデータとして、関係者に衝撃を与えています。
SNS上では、この深刻な事態に対して「製造業のコストが下がるのは嬉しいが、デフレの再来が怖い」「鉄鋼メーカーの業績が心配で、株価の動きから目が離せない」といった不安の声が目立っています。中には「これだけ余っているなら、もっと安く家が建てられるようになるのでは?」といった、消費者の視点からの期待と不安が入り混じった複雑な反応も散見されました。
供給過剰がもたらす日本経済への警鐘
ここで専門的な視点から「供給過剰」という現象を紐解くと、これは需要に対して生産された商品の量が上回り、市場で品物が余ってしまう状態を指します。こうなると価格競争が激化し、企業の利益が削られるだけでなく、設備投資の冷え込みを招く恐れがあります。現在はまさに、米中対立という外部要因によって、この負のサイクルが日本国内に持ち込まれている状況なのです。
筆者の個人的な見解としては、安価な素材の流入は短期的にはメリットがあるものの、長期的に見れば日本の基幹産業である鉄鋼業の基盤を崩しかねない危うさを秘めていると感じます。品質の高さで知られる国産材が、価格競争の荒波に飲み込まれてしまうのは、技術継承の観点からも大きな損失でしょう。今こそ、価格だけに頼らない付加価値の創出が求められているのではないでしょうか。
2019年07月14日時点の情勢を見る限り、この供給過剰の解消にはまだ時間がかかることが予想されます。世界経済のバランスが崩れる中で、日本の産業界がどのようにしてこの難局を乗り越え、独自の強みを守り抜いていくのかが問われています。今後の貿易交渉の進展とともに、国内市場の需給バランスがどのように適正化されていくのか、引き続き注視していく必要があるでしょう。