谷崎潤一郎の名作『細雪』には、戦前昭和のモダンな東京が巧みに描かれています。その中で、明治神宮外苑の中心的存在である聖徳記念絵画館が登場する場面があります。物語の舞台となった1938年、次女・幸子が娘とともに東京を訪れるシーンで、絵画館は「帝都の威容」を象徴するスポットとして描かれました。
この絵画館は、明治天皇の功績をたたえるため、1926年に完成しました。横幅112メートルの壮大な建物には、明治天皇の生涯を描いた80点の絵画が展示され、周囲には芝生広場や4列のイチョウ並木が配置されています。まさに明治の近代国家の礎を示す記念碑的な存在でした。
しかし、戦後の歴史の中で、この絵画館は次第にその注目を失います。進駐軍が芝生広場を接収し、その後も広場が野球場として使われたことで、イチョウ並木とのつながりが分断され、訪れる人々の関心も薄れていきました。また、戦後の時代背景の中で、明治時代を賛美するかのようなこの建物に対する評価も一部で敬遠されることとなりました。
その歴史をさらにさかのぼると、この施設の完成までには波乱の道のりがありました。当初、建物が完成した時点ではわずか5点の壁画しか展示されておらず、全80点が揃ったのは1936年のことでした。完成を迎えるまでの21年間、関係者は絶え間なく努力を続け、ようやくその全貌が明らかになったのです。
現在、明治神宮外苑では再開発が進められています。この計画には、芝生広場の復活も含まれており、絵画館が再び注目を集めるきっかけになると期待されています。この再開発により、絵画館が過去の歴史的文脈だけでなく、新しい視点でその意義を問われることになるでしょう。
SNSでは、再開発をめぐる議論が活発に行われています。「歴史的な建物をもっと大事にするべき」「現代的な使い方を考えたい」といった意見が飛び交い、多くの人々が絵画館の行方を見守っています。今こそ、この歴史的空間に改めて目を向ける時ではないでしょうか。絵画館が再び輝きを取り戻す未来を期待したいです。