人口減少と歴史的な低金利の波に晒され、地方銀行(地銀)の経営環境は厳しさを増す一方です。2019年3月期決算では、地銀を取り巻く逆風が、数値として明確に表れました。特筆すべきは、貸倒引当金や不良債権の処理にかかった与信費用が、前年度からなんと3倍にまで急増したという衝撃的な事実でしょう。これは、人手不足の深刻化などにより売上高が減少し、経営不振に陥る融資先が**「突然死」**のように増加していることを示唆しています。
さらに、かつての収益の柱であった有価証券の運用益も伸ばしきれず、過去に積み上げた「貯金」とも言える含み益を吐き出しつつある状況です。まさに構造不況業種の様相を呈している地銀。この記事では、この危機的な決算の核心を深く掘り下げ、今後の地銀が直面するであろう課題を読み解いていくことにいたしましょう。
急増する与信費用!地銀を襲う「突然死」の波
上場している78の地方銀行・第二地方銀行・グループの2019年3月期決算を見ると、貸倒引当金や不良債権処理などの与信費用は合計3,247億円に達し、前年度から3倍という急激な増加を見せました。この背景には、景気回復局面で融資先の業績が好転したことに伴い、2018年3月期に多くの地銀が引当金の「戻り益」を計上していた反動もあるとされていますが、それだけでは説明しきれない深刻な要因が存在します。
山形銀行の長谷川吉茂頭取が2019年5月13日の決算会見で**「(融資先の)突然死が増えている。その引き当てに苦労している」と発言されたことからも、事態の深刻さが伺えます。同行の調査によれば、19年の収益見通しが「悪化する」との予想が26.7%にのぼり、「好転する」を6年ぶりに上回ったという結果が出ており、地域経済の先行きの不安**が地銀の決算に影を落としているのが現状でしょう。
与信費用とは、融資先の倒産などにより債権が回収できなくなるリスクに備えて、事前に計上する貸倒引当金や、実際に損失が発生した際に処理する費用のことです。これが3倍に跳ね上がったことは、地銀のリスク許容度が低下し、信用力が低い企業への融資で損失が現実化し始めている証拠に違いありません。
与信費用の計上額が最大だったのはスルガ銀行で、投資用不動産向けの不正融資問題により1,363億円もの巨額な損失を計上し、最終赤字に転落しました。また、埼玉県を主な商圏とする武蔵野銀行も、取引先である曙ブレーキ工業の私的整理などが響き、前年度比8倍超の約110億円を損失処理しました。しかし、これらの不動産融資の焦げ付きや大口取引先の業績悪化は、むしろ例外的な事象と言えるでしょう。
「モラトリアム法」の負の遺産と中小企業の息切れ
多くの地銀で不良債権処理が増えたより大きな理由は、政府の救済策でなんとか延命してきた多くの中小企業の経営が行き詰まり始めていることにあります。これは2008年のリーマン・ショック後、当時の民主党政権下で制定された中小企業金融円滑化法、通称モラトリアム法の**「負の遺産」**と言えるでしょう。この法律は、金融機関に対して中小企業の借金返済を猶予するよう求めました。
モラトリアム法は、本来は不良債権とみなされるべき、経営状態の悪い企業を、金融面から支援することで健全な「正常先」に位置づけ、その再建を促す役割を果たしました。しかし、施行から10年が経過した現在でも、多くの企業で経営再建が進まないという現実があります。結果として、これらの猶予された債務が不良債権化し、地銀も貸倒引当金を積み増さざるを得ない状況に追い込まれてしまったのです。
信用調査会社の帝国データバンクによると、モラトリアム法で借金の返済猶予を受けた後に倒産した企業は、2018年度に480件にのぼり、これで3年連続の増加となりました。一方で、負債総額は前年度に比べて約3割減少しており、借金額が比較的少ない零細企業の不振が特に目立っています。帝国データバンクは**「後継者がいなくて事業継続をあきらめる例が後を絶たない」**と分析しており、これは単なる業績不振ではなく、事業承継問題という構造的な問題が根底にあることを示していると私は考えます。
新陳代謝の波と地銀の未来
横浜銀行と東日本銀行を傘下に持つコンコルディア・フィナンシャルグループの川村健一社長は、「リーマン危機から10年あまりたっても、本格的に回復できない企業はそろそろ幕引きかもしれない」と厳しい見方を示され、「新陳代謝の動きがあるだろう」と示唆されています。この「新陳代謝」が「廃業」を意味するならば、今後、地銀の不良債権はさらに増え続ける可能性が高いと言えるでしょう。
私見を述べさせていただきますと、これは地銀にとって避けられない試練であり、同時に構造改革を進める契機と捉えるべきだと考えます。経営再建の見込みがない企業への温情主義的な融資を続けることは、地域経済全体の新陳代謝を妨げ、結果的に地銀自身の首を絞めることになります。地銀は、リスク管理を徹底しつつ、真に成長の見込みがある企業や、事業承継を円滑に進められる企業への融資に経営資源を集中させるという、大胆な戦略転換が不可欠な局面に立たされているのではないでしょうか。