2019年6月5日、自動車業界を揺るがす重大な議論が進行しています。フランスの自動車大手であるルノーが、欧米のフィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)との経営統合に向けた協議の方針を取締役会で議論しています。もしこの統合が実現すれば、ルノーと長年にわたり資本・業務提携を結んできた日産自動車との関係性が根底から見直されることになり、アライアンスの今後を巡る複雑な駆け引きが始まっているのです。この巨大な再編の動きは、SNS上でも「日産はルノーから離脱すべきでは」「日本の技術がFCAに渡ってしまうのでは」といった、今後の資本関係を懸念する声や、アライアンスの行方に対する多くの注目を集めています。
日産自動車の西川広人社長兼最高経営責任者(CEO)は、この統合協議の動きに対し、2019年6月3日に「ルノーとの関係のあり方を根本的に見直す必要がある」との強い声明を発表しました。統合が正式に決まった場合、これまでの「契約関係や業務の進め方」などすべてを分析・検討するとしており、日産側が単なる傍観者ではない姿勢を鮮明にしています。この再編劇において、日産にとって特に重要な焦点となるのが、これまでの両社の関係を取り決めてきた協定文書、その名も**「改定アライアンス基本合意書(RAMA/ラマ)」の扱いです。
このRAMAとは、日産とルノーの間で資本関係の不均衡を是正し、経営上の均衡を保つために結ばれた重要な取り決めです。具体的には、日産の取締役の人数をルノーより常に1人多く保てることや、万が一ルノーの筆頭株主であるフランス政府から不当な経営介入があった場合に、日産が独自の判断でルノー株を買い増せる権利を認めています。また、日産がルノーへの出資比率を25%以上に引き上げれば、日本の会社法に基づきルノーが保有する日産株の議決権がなくなる、といった、互いに牽制し合う内容も盛り込まれています。つまり、この協定は両社の「微妙な力の均衡」を保つ要石だったと言えるでしょう。
しかし、ルノーがFCAと統合し、協定の主体が新しい会社に移行すれば、その前提は大きく崩れてしまいます。ルノーのジャンドミニク・スナール会長は2019年5月30日の取材に対し、「RAMAは変わることはない」と語り、統合交渉とは別に扱うべきとの認識を示しています。これはFCAとの交渉に集中したいという意図が透けて見えます。一方、西川社長は同年6月3日、「色々な取引に影響がある。相談すべきところは相談したい」と述べており、この協定の扱いを巡っては、すでに両トップの間で姿勢の違いが垣間見える状況です。
日産・ルノー間の不均衡な資本関係の是正は実現するのか
統合交渉における第2の、そして最も本質的な焦点は「資本構成のあり方」です。もしルノーとFCAの統合が実現すれば、日産が新会社に出資する比率は現在の15%から7.5%程度にまで低下する見通しです。これに対し、西川社長は2019年6月3日、統合が実現した際にはルノーは「全く別の会社になる」として、「色々なことを見直さないといけない」と強調し、その対象にはかねてからの課題である「資本関係の不均衡」も含まれることを明言しました。現在、ルノーは日産株の43%を保有し議決権を持っていますが、日産側のルノー株保有比率は15%で議決権がない状態です。この「不均衡」を是正できるかどうかが、日産にとっての大きなテーマになるでしょう。
一方、スナール会長は、日産は統合後の新会社でも「議決権を得られる。全メンバーに恩恵がある」と主張しており、日産の出資比率の低下を問題視すべきではないという考えを示しています。しかし、これは日産の経営の自主性を守ろうとする姿勢とは真っ向から対立する意見であり、日産側は出資比率の是正や、より対等な関係を求めて交渉に臨むべきだと筆者は考えます。この統合は、長年の不均衡な資本関係を解消する絶好の機会となる可能性があるからです。
この統合交渉は、ルノーとFCA、そして日産だけでなく、ルノーの筆頭株主であるフランス政府も含めた4者の思惑が複雑に絡み合っています。FCAは2014年の現体制発足以来、借金解消を最優先してきたため、電気自動車(EV)や自動運転といった次世代技術**(「電動化」とも呼ばれ、自動車の動力源をガソリンエンジンから電気モーターへ転換する技術のことです)への投資が遅れてしまいました。そのため、ルノーとの統合を通じて、日産が持つ高い技術力へのアクセスを狙っているものと見られます。
また、フランス政府は、統合新会社の要職にルノー出身者が継続的に送り込まれる確約を求めています。これは、将来的にFCA出身者に重要な役職を奪われる事態を警戒しているためです。このように、それぞれの利害関係が複雑に入り乱れる中、仮に統合交渉入りが正式に決まったとしても、その実現までには多くの曲折が予想されるでしょう。自動車業界の勢力図を塗り替える可能性を秘めたこの巨大な再編劇から、一時も目が離せません。