都市部での移動手段として注目される電動サイクルシェア市場で、競争が一段と激化しています。拠点(ポート)数で先行していたNTTドコモ系やソフトバンク系を後発の「ループ」(東京都千代田区)が抜き去り、都内では「徒歩1分圏内で利用可能な密度」を目指す戦略でトップに立ちました。さらに2024年8月には、世界最大手のアメリカ企業「Lime」が日本市場に参入し、競争は新たな局面を迎えています。
ループは2020年の事業開始以降、わずか数年で全国に9100ポートを展開し、トップシェアを獲得しました。その背景には、物件オーナーへのアプローチ方法や、ポート設置の柔軟性があります。例えば、既存の駐車場や狭小スペースにも対応できる簡素な設計で、効率よく設置を進めています。また、オーナーに支払うフィーでは相場を上回る条件を提示するケースも多く、競争力を高めています。一方、宿泊施設や飲食店など一部の物件では、利用者の集客効果を見込んで無償で土地を提供する例も増えており、ループの勢いをさらに後押ししています。
都内での料金は30分500円と他社より割高ですが、「拠点間の密度が利用者の利便性を左右する」という岡井大輝社長の戦略が功を奏し、利用件数は増加を続けています。ポート間の距離を現在の徒歩2分圏内から1分圏内へと縮める目標を掲げており、利便性の向上がさらなる成長を支える鍵となっています。
一方、競合他社も反撃の構えを見せています。NTTドコモ系「ドコモ・バイクシェア」とソフトバンク系「OpenStreet」は、2024年度にポートの相互利用を開始する提携を発表しました。これにより、利用者がエリアごとに異なる運営会社を意識せずにサービスを利用できる環境が整備される見込みです。特に、エリアが分断されていた横浜市では利便性の大幅な向上が期待されています。
さらに、この市場には新たな競争相手が加わります。2024年8月中旬に日本参入を発表した「Lime」は、都内で40ポートから事業を開始し、横浜や千葉、大阪、福岡への進出も計画しています。同社にはアメリカの「Uber Technologies」も出資しており、グローバルなリソースを活かしてポート拡大に注力すると見られます。
しかし、課題も少なくありません。各社の収益構造は未だ厳しく、先行投資や自治体との契約条件が利益率を圧迫しています。特に、これまで無償提供されていた公用地が有償に切り替わる動きが広がり、コスト増加への対応が求められています。
SNSでは、「徒歩1分圏内で利用できるのは便利すぎる」「地域ごとのアクセス改善に期待」といったポジティブな反応がある一方、「料金が高い」「利用者目線の改善が必要」といった指摘も寄せられています。利用者の期待に応えるためにも、競合他社との競争を通じて利便性の向上や料金体系の見直しが求められるでしょう。
電動サイクルシェアの普及は、都市部の交通手段を変える可能性を秘めています。ポート拡大と技術革新による利便性向上が進む中、今後どの企業が市場を制するのか注目が集まっています。