無添加石けん専業のシャボン玉石けん(北九州市)が2025年2月期に初のグループ売上高100億円を目指しています。1974年8月に化学物質を排した無添加製品へと完全移行してから、ちょうど50年。新型コロナウイルス禍を経て、消費者の間で製品の安全性が広まり、ブランド力が高まっています。これに伴い、同社は本社工場の生産能力を最大5割増強し、事業拡大を加速させます。
工場内では、直径3メートル、深さ5メートルの巨大な釜を使用し、職人が天然油脂とアルカリ成分を混ぜてケン化法という製法で1週間かけて石けんを作り上げます。釜炊き職人の一人、城戸玲乃さん(23)は、入社2年目にして同社初の女性職人です。「温度や材料の配合を細かく調整しながら作業を進めています」と話し、その技術と繊細な作業への情熱を垣間見せます。同社では、男性中心の職場環境を改善し、女性も活躍できる環境づくりに力を入れています。
さらに、デジタル技術を導入したスマートファクトリー化を推進しており、「アイトラッキング(視線追跡)」技術を活用して職人の判断基準をデータ化する取り組みも進行中です。「職人の勘に加え、データで品質と効率を高めることが重要です」と森田隼人社長は語ります。
1910年に創業した同社が無添加石けんに転換したのは1971年。当時、国鉄から機関車を洗浄しても錆びない石けんの開発を受注したのが契機でした。この試作品で湿疹に悩んでいた先代社長の症状が治まったことをきっかけに、「体に悪いものは売らない」という理念で事業方針を転換しました。しかし、合成洗剤に比べて高コストな無添加製品への切り替えは容易ではなく、売上高は初年度に4分の1に激減。17年間の赤字に耐えながらも、「無添加でないと肌荒れする」という顧客の声に支えられました。
広告費を捻出できなかった時期には、「自然流『せっけん』読本」を1991年に出版し、製品の健康や環境への安全性を訴求。この努力が実を結び、翌年には赤字を脱し、その後は安定した成長を遂げました。コロナ禍では手洗い需要の増加が追い風となり、2024年2月期の売上高は96億円に達しました。
今後は、北九州市若松区の本社工場を中心に、生産と物流体制を強化します。2025年から2026年にかけて、工場の生産能力を3~5割増やし、老朽化した施設の建て替えや自動化を進める予定です。新設される物流棟は最大3100平方メートル、液体石けん専用の工場棟も2000平方メートル規模で計画され、充填・梱包ラインの増設により、ボトルネックを解消し効率を高めます。
SNSでは、「シャボン玉石けんの無添加へのこだわりがすごい」「50年の信念が信頼につながっている」といった称賛の声が多く見られます。環境や健康への意識が高まる中で、同社の成長戦略は大きな注目を集めています。
創業から113年を迎え、シャボン玉石けんは50年にわたる無添加の信念を基盤に、さらなる事業拡大と品質向上を目指します。その挑戦は、消費者に安心と信頼を届けるだけでなく、次世代の産業モデルをも示すものとなるでしょう。