「飲む香水」とも呼ばれるジンが、ここ数年で注目を集めています。全国の販売データによれば、2023年8月から2024年7月までのジンの販売個数は17万個に達し、4年前の2倍に増加しました。この伸び率はウイスキー(11%増)を大きく上回り、棚に並ぶ商品の数も3割増加して100点を超えています。
ジンの人気を牽引しているのが、サントリーの「翠(SUI)」です。2020年の発売時には、人気アイドル平野紫耀さんを広告に起用し、女性ファンを中心に多くの支持を獲得しました。その結果、2023年には関連商品の販売量が発売時の約10倍に成長しました。同社は、2030年までに国内ジン市場を現在の2倍以上となる450億円規模に拡大する目標を掲げています。
ジンの特徴は、その自由な香りと味わいにあります。穀物などを発酵させて作るスピリッツに、ジュニパーベリーや草根木皮(ボタニカル)を加えて蒸留することで、地域や製造者の個性が反映されるのです。例えば、京都のクラフトジン「季の美」ではユズや赤紫蘇、山椒を使用。長崎の五島列島ではツバキ、京都ではお茶風味のジンが楽しめます。ジン専門バー「Bar Soutsu」を運営するジンラボジャパンの小野寺総章代表は、「地元のボタニカルを活用することで、地域性を生かしたジンが生まれる」と語ります。
ジンが多様に展開される背景には、製造の手軽さがあります。ウイスキーが完成までに3〜5年を要するのに対し、ジンは約1カ月で作ることが可能です。そのため、ウイスキー製造を目指す事業者が完成を待つ間にジンを製造するケースも増えています。また、建材業者やゴミ処理事業者など異業種からの参入も目立ちます。
ジンの歴史を振り返ると、1660年にオランダで薬用酒として誕生し、18世紀にイギリスで広まりました。19世紀末にはアメリカでカクテルのベースとして注目され、2010年代にはロンドンでのクラフトジン・ブームをきっかけに、世界中に広がりました。現在、イギリスではジンの市場規模がウイスキーを上回るほどの人気です。
日本でもジンの市場は拡大していますが、ウイスキーや焼酎と比べるとまだ小規模です。それでも、ジン専門バーや独自のクラフトジンを提供する蒸留所が増え、「ジンを一度飲めばその美味しさに気付いてもらえる」と小野寺代表は期待を寄せています。
インテリアとしても楽しめる美しいボトルや多彩な香りで、多くの人を魅了するジン。日本市場でさらに広がるその可能性に、注目が集まっています。