1913年(大正2年)創業の老舗和菓子店「東照(とうてる)」は、JR川崎駅や京急川崎駅から徒歩10分圏内、旧東海道沿いに店舗を構えています。川崎市を代表するこの名店は、地域の伝統を守りつつも、新たな挑戦で注目を集めています。その象徴ともいえるのが、4代目代表取締役の岩瀬亘克氏が考案した「かわっぴら餅」。よもぎ餅に粒あんを包み、薄く伸ばして両面を香ばしく焼き上げたこの一品は、「川崎らしいお土産」として評判を呼び、市内の名産品に選定されています。
岩瀬氏は「大福や焼き大福が好きだったが、もっと手軽で食べやすい形にできないかと考えた」と語っています。この斬新な発想が、多くの人に愛される商品を生み出しました。さらに、「ありがとうどら焼」も人気商品として定評があります。ふんわりした皮に「ありがとう」と焼き印が施され、感謝の気持ちを伝える贈り物として支持されています。
古くからの名品としては、「元祖大粒栗最中(もなか)」が根強い人気を誇ります。栗をかたどった皮の中には、上品な粒あんと大粒の栗がたっぷり詰まっており、神奈川県指定銘菓にも選ばれています。
一方、少し意外性を感じさせるのが「奈良茶飯風おこわ」です。この商品も岩瀬氏のアイデアから生まれました。川崎宿の歴史にヒントを得て、うるち米ともち米を使い、栗の甘露煮や豆類をお茶で炊き上げたこのおこわは、旧東海道の宿場町としての川崎の伝統を現代に蘇らせた一品です。店舗に併設されたイートインスペースでは、風味豊かな味わいをその場で楽しむことができます。
また、新たに販売を開始した洋菓子「東照のフィナンシェ六郷の渡し舟」も注目です。ゴマ、よもぎレモン、白味噌の3種類が揃い、和のエッセンスを取り入れた独自のフィナンシェは、かつて多摩川を行き交った「六郷の渡し舟」を形状で再現しています。この歴史を感じさせる商品は、洋菓子でありながら川崎ならではの魅力を伝えています。
SNSでは「かわっぴら餅の素朴な味が最高」「奈良茶飯風おこわを食べて川崎宿の歴史を感じた」などの投稿が相次ぎ、地元住民だけでなく観光客の間でも話題になっています。地域の特色を菓子に込める東照の試みは、ただおいしいだけでなく、川崎の魅力を再発見させる力があります。川崎に足を運ぶ際には、東照の店舗でその味と物語に触れてみてはいかがでしょうか。