2024年2月、ミズノが発売した野球用厚底スパイク「CUSHIONREVO PRO(クッションレボプロ)」が、野球界に新風を吹き込んでいます。このスパイクは、ランニングシューズで一世を風靡した「厚底」の技術を初めて野球用に採用したもので、足への負担を軽減する優れたクッション性が特徴です。発売以来、プロを目指す中高生やトップアマチュアから支持を集め、年間1万足の販売目標に向けて順調な滑り出しを見せています。
「これまでにない革新的なスパイクです」と話すのは、商品企画を担当した鈴木康平さん。従来の野球界では「軽さ」や「素足感覚」が重視されており、厚底スパイクという発想自体が存在しなかったといいます。この新しいスパイク開発のきっかけは、2017年頃に登場し、駅伝やマラソン界で旋風を巻き起こしたナイキの厚底ランニングシューズでした。それを目にした鈴木さんは、「野球でも同様の技術を応用できないか」と考え、2021年春から開発を本格的にスタートしました。
厚底スパイクが特に注目された背景には、硬いグラウンドで行われる東京オリンピックやWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)など、国際大会を見据えた需要がありました。プロ選手をはじめとする多くの野球プレイヤーからも、「足への負担が軽いスパイクを履きたい」という要望が寄せられていたのです。しかし、クッション性と反発力を両立させることは簡単ではなく、試作品を60人以上のプロ選手に試着してもらい、「柔らかすぎて安定しない」「反発力が足りない」といった厳しいフィードバックが繰り返されました。
鈴木さんは「現場に足を運び、選手の声に耳を傾けることが何よりも大切」と語ります。その結果、通常の2倍以上の試作品を作り、材料や形状の調整を重ねて、ついに理想的な履き心地を実現しました。また、足を覆う「アッパー」部分には、スポンジ素材を採用するなど、サッカーやテニス用シューズの技術も参考にし、フィット感を向上させました。
この革新技術を詰め込んだクッションレボプロですが、価格は1万5000円程度と同ブランドの従来製品と同水準に抑え、多くの人に手に取ってもらえるよう配慮されています。SNSでも「履き心地が革命的」「疲労感が全然違う」といった感想が相次ぎ、特に野球部に所属する学生たちの間で大きな話題を呼んでいます。
鈴木さんは、自身が野球で怪我に苦しんだ経験から、「怪我のない野球界を作りたい」という思いを胸に開発を続けてきました。厚底スパイクという新たな可能性を切り開いたクッションレボプロは、野球プレイヤーにとって頼れる相棒となるでしょう。