株式上場(IPO)を目指す企業が、主幹事証券会社の推薦審査を通過したにもかかわらず、東京証券取引所(東証)の審査で延期や取りやめになるケースが多発しています。これは、2019年6月5日時点での深刻な課題として、多くの関係者が頭を悩ませている状況です。セントリス・コーポレートアドバイザリー代表取締役の谷間真氏は、「東証の審査が厳しくなっている」という一般的な見方に対し、異を唱えています。審査の厳格化というよりも、時代が求める上場企業への要請を踏まえ、東証の審査がより本質的なものになっているというのが、同氏の見解です。
東証、正確には日本取引所自主規制法人の上場審査部の審査官は、極めて優秀で理解力が高く、上場申請からわずか3カ月足らずで企業の事業内容や固有の課題を深く見極め、核心を突く審査を実施しています。その結果、多くの企業が上場承認に至っているのです。しかし、企業側には、監査法人や主幹事証券といった専門家が最低でも2年以上はサポートについているにもかかわらず、本質的な検討や課題解決ができていないまま審査に突入し、結果として失敗してしまう事例が後を絶ちません。
では、実際に上場審査で問題となるのはどのような点でしょうか。それは、企業に固有の「審査ポイント」の見極めとその解決です。監査法人は主に財務諸表監査という、会計や内部統制の側面からのサポートが中心です。そのため、より広範なIPOへの関与は期待できません。頼りにすべきは、企業の公開引受を担う主幹事証券会社の公開引受部ですが、谷間氏は、その助言が「形式的な判断」に留まることが多く、東証の「実質的」な審査スタンスとの間に大きな乖離が生じていると感じています。
東証の審査が実質的に問うているのは、**「企業価値全体の向上」**を最優先させる上場企業として、経営判断、リスク管理、情報開示といった重要なプロセスを適切に実施する能力が、その企業にあるかどうかという点です。つまり、単に形式を整えるだけではなく、IPOを目指す経営陣が、上場企業として必要な経営能力を実質的かつ本質的に身に付けているかが問われているのです。上場企業の経営者は、自社の利益だけでなく、株主をはじめとする社会全体の利益を考慮できる「パブリックカンパニー」としての意識改革が不可欠だと言えるでしょう。
SNS上では、「審査の厳しさ」について語られることが多く、「形式的な書類の不備で時間がかかる」といった不満の声も散見されます。しかし、谷間氏は、形式的なルールにとらわれることの弊害を指摘しています。例えば、オーナー経営者の意識改革の表れとして、交際費や社用車がチェックされることがありますが、これは金額や車種に特定のルールがあるわけではありません。「国産車なら良いが輸入車は駄目」といったアドバイスは全く合理性を欠いています。重要なのは、経営陣が、個人的な利益よりも企業全体の利益を優先して考える「自覚と能力」があるかどうかなのです。
企業価値向上に貢献しないコストは削減すべきですが、逆に、必要なコストであれば大胆に使うという判断もあり得ます。経営陣が「全体の利益」を考える能力さえあれば、このような問題はそもそも発生しないのです。形式的な体裁を整えること自体が目的となってしまうと、本質を見失ってしまいます。私は、形式的なルールに縛られ、本来行うべき経営判断や投資を萎縮させてしまうような助言は、かえって企業の成長を妨げるものであり、避けるべきだと強く主張します。
だからこそ、谷間氏は、IPO支援に携わる主幹事証券をはじめとした専門家たちに対し、形式的な助言に終始するのではなく、「上場企業の経営者としての目線」で企業と向き合うことを求めています。その企業固有の審査ポイント、すなわち課題を見極め、経営者とともに解決していく過程で、専門家自身も自己研鑽を積み、優秀な経営者を育てられる人材へと成長してほしい、と同氏は期待を込めて語っています。このアプローチこそが、IPO成功への確かな道筋となるに違いありません。