フランス発祥の格闘技「サバット」がじわじわと注目を集めています。「サバット」とはフランス語で「靴」を意味し、硬い靴を履いて繰り出す蹴り技が特徴の競技です。その痛そうな一面とは裏腹に、優雅で華麗な技やコスチュームのファッション性が魅力です。2024年のパリ五輪では種目採用が叶いませんでしたが、その歴史と独自性には目を引かれるものがあります。
サバットの起源は18世紀のフランスに遡り、元々は喧嘩技として始まりましたが、次第に上流階級の護身術として普及しました。その過程で公式ルールが整備され、デザイン性と実用性を兼ね備えた格闘スポーツへと発展しました。二度の世界大戦を経て低迷期を迎えるも、1985年に国際サバット連盟が発足し、1989年には初の世界大会が開催されました。
サバットの試合形式は2種類あり、ノックアウトを狙うフルコンタクトの「コンバ」と、軽い接触でポイントを競う「アソー」があります。「アソー」は特に優雅なフォームが特徴で、相手との距離ができやすい分、蹴り技の美しさが際立ちます。技には「フゥェテ」(側面からの回し蹴り)や「シャッセ」(足を真っ直ぐに伸ばす蹴り)などがあり、パンチと組み合わせて攻撃します。さらに、アクロバティックな「アサンスール」(相手の太ももを踏み台にして跳ぶ技)もありますが、実戦ではほとんど見られません。
日本ではジャパン・サバット・クラブを率いる窪田隆一代表を中心に競技が広がっています。窪田さんはフランス文化と格闘技への憧れをサバットに見出し、その普及に尽力してきました。しかし日本の競技人口はまだ少なく、世界大会を目指すレベルの選手はわずか20人程度です。一方、フランスでは約5万5千人の競技人口を誇り、国際大会でも圧倒的な強さを見せています。
サバットは他の格闘技にも影響を与えており、ブルース・リーが創始したジークンドーやプロレス技の「ローリング・ソバット」はサバットに由来します。K-1レジェンドのアーネスト・ホーストもサバット経験者として知られています。
1924年のパリ五輪では公開競技として行われた歴史がありますが、2024年のパリ五輪では正式種目としての復活は叶いませんでした。フランスサバット連盟がエマニュエル・マクロン大統領に直談判するなどの働きかけを行いましたが、採用されたのはダンス系競技の「ブレイキン」でした。それでも、普及を目指した活動は続いており、サバットは独自の魅力で新たなファンを獲得しつつあります。
SNSでは「痛そうだけど美しい技がすごい」「仮面ライダーみたいなコスチュームが面白い」といった声が上がり、興味を持つ人が増えています。格闘技でありながら、フランスらしいエレガントさを併せ持つサバットは、競技としてだけでなく、文化的な魅力も秘めています。今後、さらに広がりを見せるかもしれません。