2020年7月24日に幕を開ける東京五輪まで、残すところあと1年となりました。この歴史的な祭典を商機と捉え、電機メーカーや警備業界、小売業といった名だたる日本企業が熱い視線を注いでいます。膨大な数の訪日外国人が日本を訪れると予想されるなか、既存の大手企業だけではカバーしきれない細やかなニーズを支える存在として、独自の技術を持つ「スタートアップ企業」が今、大きな注目を集めているのです。
SNS上では「五輪期間中の混雑や言葉の壁が心配」という声も散見されますが、最先端の「旅テック(トラベル×テクノロジー)」がその不安を解消しようとしています。ある架空の訪日客、上海出身の王さんの視点から、2020年の夏に繰り広げられるであろう、テクノロジーに彩られた快適な日本観光の姿をシミュレーションしてみましょう。成田空港に降り立った彼がまず手にしたのは、WAmazing(ワメイジング)が提供する無料のSIMカードでした。
これはスマホに挿入するだけで日本での通信が可能になるICカードで、全国22の空港で受け取りが可能です。地方空港から入国する観戦客にとっても、母国語で予約できるこのサービスは心強い味方となるでしょう。さらに、異文化での不安要素となりやすい「トイレ」事情にも進化が見られます。TOTOとバカンが協力し、2019年4月から導入を始めた電子看板は、センサーによって個室の空き状況をリアルタイムで多言語表示してくれます。
バカンの河野剛進社長は、車いす利用者などが使う多目的トイレの空室情報提供にも意欲を燃やしており、パラリンピックを見据えたアクセシビリティの向上にも期待が高まります。こうした「空き状況の可視化」は、行列によるストレスを劇的に減らすはずです。一方、移動手段の確保も重要です。JR東日本は、Webサイトの多言語化にWOVN.io(ウォーブン)のシステムを採用し、タイ語やスペイン語など幅広い言語での案内を充実させています。
宿泊先でも最新のAIがゲストを迎え入れます。東京ステーションホテルが全室に導入した無料スマホ「handy」には、ビースポーク社のAIチャットボットが搭載されました。これは人工知能が対話形式で質問に答えるプログラムで、24時間いつでも交通案内などをサポートしてくれます。総支配人の藤崎斉氏も、初めて日本を訪れる人々への手厚いフォローとして、このデジタルなおもてなしに大きな期待を寄せており、非常に頼もしい取り組みです。
五輪が生み出す「おもてなし」のデジタルトランスフォーメーション
五輪期間中は競技の合間に観光を楽しむ時間も増えるでしょう。そこで活躍するのが、ガイドツアーを運営するotomo(オトモ)です。彼らは自治体と連携してガイドの養成に励んでおり、会場周辺の魅力を伝えるオーダーメイドな旅を提案しています。私自身、こうした「人による温かみ」と「効率的な予約システム」の融合こそが、観光立国を目指す日本にとって、五輪後の大きな財産になると確信しています。
ショッピングの現場では、多言語翻訳端末の「Payke(ペイク)」が力を発揮しています。商品のバーコードを読み取るだけで、その特徴を母国語で表示できるこの端末は、言葉が通じない不安を取り除き、爆買い需要をさらに加速させるでしょう。また、荷物の預け場所に困った際は、ecbo(エクボ)の出番です。カフェなどの空きスペースを荷物預かり所として活用するこのサービスは、コインロッカー不足という都市部の課題を鮮やかに解決します。
大会本番まで1年を切り、スタートアップ各社に課せられた「黒子」としての役割は極めて重要です。彼らが提供する利便性は、単なる技術の誇示ではなく、訪日客に「また日本に来たい」と思わせる「おもてなし」の真髄と言えます。準備期間は残りわずかですが、これらの革新的なサービスが五輪を成功に導き、日本のサービス産業を一気にアップデートさせる起爆剤となることを切に願ってやみません。