2019年6月5日、世界の国際送金システムを担う国際銀行間通信協会(SWIFT:Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication)が、中国で現地法人を設立したと発表いたしました。本拠地であるベルギー以外で法人を設けるのは、SWIFTの歴史において初めてのことであり、金融業界に大きな衝撃を与えています。
SWIFTは、銀行などの金融機関が海外送金を行う際に利用する、メッセージングネットワークを運営している組織です。世界200以上の国・地域から1万1千社を超える金融機関などが参加しており、まさに国際金融におけるインフラストラクチャー(基盤)と言えるでしょう。これまでの中国国内には現地事務所が置かれていましたが、このたび北京の監督当局から正式な設立認可を得て、現地法人へと格上げされました。
この法人化によって、SWIFTは中国の監督当局との意思疎通をより円滑に進められるようになると見込んでいます。その結果、海外送金に要する時間の短縮など、利用者に提供するサービスの改善に積極的に取り組んでいく方針です。中国におけるスタッフは現在50人程度ですが、アジア太平洋・中東地域の責任者であるアラン・ライス氏は「今後5年間でスタッフをさらに50人増やすことも視野に入れています」と述べ、中国における規模拡大を進める意向を示しています。
このニュースに対するSNSでの反応は非常に注目すべきものでした。「これは中国市場への本格的なコミットメントの表れではないか?」「国際的な金融インフラが中国でのプレゼンスを強めるのは自然な流れ」といった期待の声が多く寄せられました。一方で、「中国当局の監視が強まるのではないか」という懸念や、「人民元の国際化にとっては微妙なニュース」といった議論も巻き起こっています。
中国のCIPSとSWIFTの競争関係とは?
SWIFTが現地法人を設立した背景には、中国が普及を急いでいるCIPS(Cross-border Interbank Payment System:人民元の国際銀行間決済システム)の存在があります。CIPSとは、中国人民銀行主導で構築が進められているシステムで、海外の金融機関が人民元建ての取引を直接行うことを可能にする、いわばSWIFTの競合システムです。中国は人民元の国際化を国家戦略として掲げており、その推進役としてCIPSに力を入れています。
私はこの動きを、SWIFTが人民元の国際化という大きな流れを座視せず、自らの優位性を強調し、中国市場における主導権を確保するための戦略的な一手であると評価しています。CIPSが中国国内および周辺地域での影響力を高める中、SWIFTとしては法人化によって監督当局との密接な連携を図り、自社の提供するネットワークが引き続き中国の国際決済において不可欠であることを示していく必要があるのでしょう。これは単なるサービス改善に留まらず、グローバルな決済システムの覇権をめぐる静かなる競争の幕開けと言えるのではないでしょうか。
SWIFTが持つ、世界中の膨大な金融機関を結ぶ強固なネットワークと、CIPSが持つ、人民元を軸とした迅速な決済処理能力。この二つのシステムの今後の展開は、国際金融の景色を大きく変える可能性を秘めています。特に中国の金融市場が開放へと向かう流れの中で、SWIFTがどのようなイノベーションを起こし、既存のシステムとCIPSとの共存、あるいは競争を繰り広げていくのか、メディアとして今後も動向を注視していく必要があるでしょう。