2024年4月に施行された医師の働き方改革関連法により、勤務医の年間残業時間が原則960時間、週換算で60時間に制限されました。しかし、8月に日本経済新聞と日経BPの「日経メディカルオンライン」が共同実施した調査では、規制施行後も約4人に1人がこの上限を超えて働いていることが明らかになりました。また、全回答者の18%が診療日や診療時間帯の制限といった影響が生じていると答え、患者にも受診機会の減少という形で副作用が及んでいます。
働き方改革により医師の負担軽減が期待されましたが、今回の調査では「労働時間が減った」と答えた医師は全体の9%に留まり、「変わらない」との回答が78%を占めました。一部の病院では規制施行前から短縮努力をしていたため大きな変化が見られなかったと考えられますが、それでも2割以上の医師が依然として長時間労働を強いられている現状があります。
特に象徴的なのが、「宿日直(しゅくにっちょく)」と呼ばれる夜間や休日の待機業務に関する特例です。軽度な業務で十分な睡眠が取れる場合には労働時間に含まれない制度ですが、実際には「日勤と変わらない業務内容がある」と16%の医師が回答しています。この制度の抜け穴により、一部の医師は規制の恩恵を感じられない状況が続いています。
さらに、医師の勤務先の規模や経営形態による違いも見られました。400床以上の大病院に勤める医師では、33%が週60時間以上働いている一方、診療所の開業医では19%に留まりました。また、診療制限の影響が最も大きかったのは大学病院で、28%が「影響がある」と回答しています。医師派遣を続けた結果、大学病院自体が診療制限を余儀なくされているケースが浮かび上がりました。
東京財団政策研究所の渋谷健司・研究主幹は「名ばかりの改革では医師の負担軽減には至らない」と指摘しています。年間1860時間という例外的な上限が設定されている医師もおり、規制の抜け道が問題視されています。
SNSでは「医師の負担軽減を本気で進めるべき」「診療制限で患者も困る」といった声が多く見られます。働き方改革の本来の目標は、医師の負担を軽減しながら医療提供体制を維持することにありますが、今回の調査はそのどちらも達成には程遠い現状を浮き彫りにしました。医師の長時間労働と患者の受診機会の確保を両立するため、さらなる改善が求められるでしょう。