中小企業で進む賃上げの現状:人手不足が背景に、防衛的対応の課題も

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る

2024年9月2日、財務省が発表した4~6月期の法人企業統計によると、中小企業で働く人の人件費が前年同期比で6.7%増加し、大企業の1.1%増を大きく上回りました。特に中小企業では、人材確保のための賃上げが顕著ですが、利益面では大企業に遅れを取っており、一部の中小企業では業績改善を伴わない「防衛的賃上げ」が広がっている可能性があります。

全産業(金融・保険業を除く)での経常利益は前年同期比13.2%増の35兆7680億円となり、四半期ベースで過去最高を記録しました。一方、従業員給与で見ると、企業規模が小さいほど賃上げ幅が大きい傾向があり、大企業の1.7%増に対して、中堅企業が6.0%増、中小企業は7.3%増でした。この背景には、深刻な人手不足があります。2024年6月の全国企業短期経済観測調査(日銀短観)では、雇用人員判断DI(雇用が過剰と答えた企業の割合から不足と答えた割合を引いた値)は、大企業が-28、中堅企業が-36、中小企業が-37と、中小企業ほど不足感が強い結果となりました。

一方で、利益面では大企業の成長が際立っています。経常利益では、大企業が15.3%増、中堅企業が10.9%増、中小企業は6.3%増でした。製造業に限ると、大企業が16.1%増である一方、中小企業は5.1%の減益となり、規模による明暗が鮮明です。さらに、6月に日本商工会議所が発表した調査では、中小企業のうち「賃上げを実施または予定」と答えた企業の59.1%が「防衛的賃上げ」と回答し、「前向きな賃上げ」の40.9%を上回りました。

企業の賃上げ余力を示す「労働分配率」でも、中小企業の70.3%に対し、大企業は37.6%と過去最低を記録。新型コロナウイルス禍前の2020年1~3月期からの低下幅は、大企業が約9ポイントであったのに対し、中小企業は約2ポイントにとどまり、余力の差が拡大しています。

2024年度の最低賃金引き上げでは、地方を中心に27県が政府の引き上げ額目安を上回り、中小企業へのさらなる賃上げ圧力が予想されます。SNS上では「中小企業の賃上げ努力を評価すべき」「人手不足がこれ以上深刻化しないような支援が必要」といった声がある一方、「防衛的賃上げが企業の将来にどう影響するのか」といった懸念も見られます。

中小企業が人材確保を優先しながらも持続可能な賃上げを実現するためには、利益向上を伴う体制の強化や、国や地域による支援が欠かせないでしょう。この現状は、日本経済全体の安定と成長を考える上で重要な課題を提示しています。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る

SNSでもご購読できます。

コメントを残す

*