2024年9月現在、日本の大手銀行における人事制度の大幅な変革が注目を集めています。三菱UFJ信託銀行は2025年までに約7,000人分の人事権を従来の人事部から各事業部門に移譲し、評価や人事案の作成を現場に委ねる計画を進めています。また、三井住友銀行も2026年を目標に専門人材の評価において事業部門の関与を強める方針を示しています。これらの取り組みは、これまで「集権的」と指摘されてきた銀行の人事運営に大きな転換をもたらそうとしています。
三菱UFJ信託銀行では、事業部門ごとに幹部候補を育成し、将来のリーダーシップを現場で議論する仕組みを整備中です。従来、人事部がブラックボックス的に進めていた人事案作成は、各部門に権限を委ねることで透明性を向上させる狙いがあります。この変革をスムーズに進めるため、各部門に「ヒューマンリソースビジネスパートナー」という人事の専門担当者を配置し、資格や経歴といった人事情報の共有を促進しています。また、人事部門自体は次世代リーダーの育成や各部門の取り組みの監督・調整に特化する体制へ移行しています。
こうした変化の背景には、日本の銀行業界が直面する人材確保の難しさがあります。バブル期前後に大量採用した世代が定年を迎えつつあり、その後継を担う新卒採用や中途採用が急務となっています。特に成長分野である資産運用や不動産部門では、外資系企業や異業種との競争が激化しており、それぞれの部門に適した柔軟な人事運営が求められています。
他の大手銀行もこれに追随しています。三井住友銀行は2020年に「エキスパート認定制度」を導入し、専門人材に異動の制限や特別手当を与える仕組みを整えました。また、2026年には入社年次に基づく給与制度を廃止し、若手でも高収入を得られる柔軟な報酬体系を導入する計画です。これにより、20代でも年収2,000万円を達成できる仕組みを整え、行員の専門性をさらに高める狙いがあります。一方、みずほフィナンシャルグループでは2024年度から仕事内容に基づく「役割給」を採用し、事業部門が人員配置計画を担う体制に移行しました。
このような現場主導の人事権移譲は、海外の金融機関では一般的な慣行ですが、日本の銀行にとっては画期的な試みです。これまで日本の銀行は人事部がポストの調整を一手に担ってきましたが、終身雇用や年功序列という前提が崩れつつある現在、同業間での転職が増加しており、雇用の流動化に対応する人事制度の見直しが急務となっています。
SNSでは「若手のキャリアが広がる可能性に期待」「時代に合わせた柔軟な制度が必要」といった肯定的な声がある一方、「現場に負担がかかりすぎるのでは」といった懸念の意見も見られます。いずれにせよ、銀行業界における人事制度の変革は、単なる効率化を超え、個々の専門性を尊重しつつ競争力を高める新たなステージへと移行する重要な一歩となるでしょう。