アジア屈指の成長市場として注目を集めてきたインドの自動車産業が、今まさに歴史的な逆風にさらされています。2019年06月の新車販売台数は前年同月比で16%も落ち込み、これで8カ月連続の前年割れという異例の事態となりました。業界最大手のマルチ・スズキでさえ、2019年04月〜06月期の純利益が27%減少するなど、市場の冷え込みは深刻さを増しています。
特に衝撃を持って受け止められているのが、地場大手のタタ自動車が赤字に転落したというニュースです。SNS上では「インドの象徴とも言えるタタが苦戦するなんて信じられない」「いよいよ不況の足音が聞こえてきた」といった不安の声が広がっています。急速な右肩上がりを続けてきた巨大市場に、一体何が起きているのでしょうか。その背景には、複雑に絡み合う3つの大きな要因が隠されています。
信用不安と規制強化が招いた「三重苦」の正体
まず大きな打撃となっているのが、ノンバンクによる「貸し渋り」です。ノンバンクとは、銀行以外で融資を行う金融機関を指し、インドの個人消費を支える重要な存在でした。しかし、大手インフラ金融会社の経営危機をきっかけに信用不安が広がり、自動車ローンの審査が極めて厳しくなっています。消費者が車を買いたくても資金を借りられないという、経済の毛細血管が詰まったような状態に陥っているのです。
追い打ちをかけるように、2018年後半からは自賠責保険の制度変更も負担となっています。従来は1年更新が一般的でしたが、最高裁判所の命令により、新車購入時に複数年分の保険料を一括で支払うことが義務付けられました。これにより初期費用が跳ね上がり、中間層の購入意欲を削ぐ結果となっています。ネット上では「ただでさえ高い買い物が、保険のせいでさらに遠のいた」と嘆くユーザーも少なくありません。
さらに、2020年春に導入予定の厳しい排ガス規制「BS6」を控えている点も見逃せません。これは欧州基準に匹敵する環境規制で、自動車メーカーは大幅なコスト増を余儀なくされます。消費者の間では「新型が出るまで待ったほうがいいのではないか」という買い控えの心理が働いています。金融、制度、環境という3つの壁が同時に立ちはだかり、市場の活力を奪っているのが現状といえるでしょう。
個人的な見解としては、今回の不振は単なる一時的な調整局面を超え、インド経済全体の脆弱性を露呈させていると感じます。自動車産業は製造業の柱であり、減産が長引けば雇用やGDP成長率への悪影響は避けられません。政府による迅速な金融緩和や購入支援策が打ち出されない限り、この冬の時代は予想以上に長く続く恐れがあります。急成長の歪みが、今まさに試練として突きつけられているのではないでしょうか。