農業用ドローンの分野で世界をリードする中国のDJIが、国内外での市場開拓を一層加速しています。2024年9月現在、同社が販売した農業用ドローンの累計台数は約30万台に達し、5年間で15倍の成長を遂げました。この急成長の背景には、自動飛行機能をはじめとする高度な技術が中国の若手農家の需要を捉えたことがあります。一方で、アメリカやヨーロッパでの中国ハイテク産業に対する規制強化が、海外事業の不透明感を高めています。
中国の農村部では、ドローンが農薬や肥料を散布する光景が日常の風景になりつつあります。農業用ドローンは空撮機能を活用して田畑の形状や広さを測定し、自動で最適な飛行ルートを設定します。さらに、1分間で最大18リットルの農薬を散布する能力を持つ最新機種も登場しており、効率性の面で大きな進歩を遂げています。この技術革新により、中国全土の農地の3分の1で同社のドローンが利用されるまで普及が進みました。主な利用者は30代から40代の大規模農家で、少子高齢化による労働力不足を補う存在として期待されています。
機体価格は約5万元(約100万円)で、競合製品に比べてコストパフォーマンスに優れている点も、人気の理由の一つです。市場調査会社QYリサーチによれば、2024年の農業用ドローン市場規模は約31億ドル(約4500億円)に達し、2030年には90億ドルに拡大する見通しです。DJIは世界シェアの3割を握り、2位のヤマハ発動機(11%)を大きく引き離しています。
DJIは2015年に農業用ドローン事業を開始し、2022年には全社の年間売上高約300億元のうち、農業分野が消費者向け空撮ドローンに次ぐ主力事業へと成長しました。同社は国内の若手農家と長期的な関係を築くため、約6000人のインストラクターを配置して操作方法を指導するとともに、1100カ所に修理拠点を設置。故障の95%を6時間以内に修理する体制を整えています。
日本でも導入が進んでおり、鳥取県大山町で水稲栽培を行う22歳の馬田雄大さんは、16ヘクタールの田んぼでドローンを活用。以前は田植え機を使っていた作業が、ドローン導入によって5倍速くなり、身体的負担が大幅に軽減されたと語っています。約180万円の機体は初期投資として高額に見えますが、従来の農機具に比べてコストを抑えられるため、農家にとって魅力的な選択肢となっています。
一方で、アメリカをはじめとする西欧諸国では、中国のハイテク産業への規制が強まっています。2024年6月、アメリカ下院はDJI製品の使用を制限する内容を含む「国防権限法案」を可決しましたが、最終的には利用者の反対もあり、この制限部分は削除されました。それでも、地政学的なリスクが高まる中、今後も厳しい規制が課される可能性があるでしょう。また、軍事利用への懸念が広がる中、DJIは紛争の多い地域での農業用ドローン販売を自主的に控えています。
SNSでは、「農業の省力化に革命を起こしている」「高齢化社会における救世主だ」といったポジティブな意見が多く寄せられる一方、「アメリカやヨーロッパの規制で市場の未来はどうなる?」といった懸念の声も見られます。技術革新が農業の未来を切り開く一方で、地政学的な課題がその進化をどのように左右するか、今後も注目が集まるテーマと言えるでしょう。