2024年9月現在、ドイツ東部の州議会選挙が示したのは、右派勢力の拡大と市民の分断の深刻化です。極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」をはじめとする右派勢力は、移民排斥や治安維持を前面に押し出し、有権者の不安を煽る選挙戦術を展開しました。一方で、与党のドイツ社会民主党(SPD)は住宅支援や教育政策といった穏当なテーマに終始し、両者の間で対照的な戦略が際立ちました。この選挙結果は、2025年9月の総選挙に向けて、ドイツ政治がどの方向に進むのかを大きく左右するものです。
選挙戦の期間中、過激な言動や暴力も目立ちました。8月には、チューリンゲン州の州都エアフルトで左派新党を率いるワーゲンクネヒト党首が演説中に赤い液体を浴びせられる事件が発生。また、5月にはSPD所属の欧州議会議員がドレスデンで襲撃され、犯行グループの一部は極右思想に傾倒していた疑いがあります。こうした事件が相次ぐ中で、民主主義の基盤である安全な言論の場が脅かされている現状が浮き彫りになりました。
有権者の間では、過激な主張が一定の支持を集める一方、企業や市民社会からは懸念の声が上がっています。ドイツの大手スーパーマーケットチェーン「エデカ」は、「青(AfDの政党カラー)は良い選択肢ではない」と訴える全面広告を新聞に掲載しました。広告では、パイナップルやキウイなどカラフルなフルーツの写真を添えて「多様性と寛容性」を呼びかけ、社会全体で過激な排外主義に対抗する姿勢を示しました。
ザクセン州の高級時計ブランド「ノモス」の共同マネージング・ディレクター、ユーデット・ボロフスキー氏も、「ドイツの右傾化は歴史的に見ても惨事であり、恥ずべきこと」と述べ、これ以上の過激化が「メード・イン・ジャーマニー」の価値を損なう可能性があると警鐘を鳴らしました。
AfDが支持を広げる背景には、移民政策や治安問題への不安が大きく影響しています。特に東部地域では、旧東ドイツ時代からの経済格差や地方の過疎化が根強く、移民への寛容な政策が生活の安全を脅かしているとの不満が広がっています。さらに、8月下旬に発生したシリア人難民による無差別殺傷事件も、右派勢力に追い風を与えました。
こうした状況下、民主主義の根幹である選挙が分断を際立たせていることは否定できません。ドイツは反ナチスを国是とし、多様性と人権を重視してきた歴史を持つ国ですが、その価値観が試される時期に差し掛かっています。SNSでは、「右派の台頭がヨーロッパ全体の不安定化を招く」「歴史から学んだドイツがどのようにこの危機を乗り越えるか注目したい」といった声が多く見られます。
民主主義と分断、そしてヨーロッパのリーダーシップを巡るドイツの選択は、国内に留まらず、世界中の注目を集めています。この選挙結果が示す不安定な情勢が、ドイツの未来をどのように形作るのか、今後の展開に目が離せません。