インド全土で、女性に対する暴力への抗議活動が広がりを見せています。きっかけとなったのは、2024年8月9日に西ベンガル州で発生した研修医の女性が病院内で性的暴行を受け殺害された事件です。この事件は、女性や医療従事者の安全対策の不備が浮き彫りとなり、インド国内で深刻な社会問題として注目されています。
インドのムルムー大統領は8月28日に「この事件は女性に対する犯罪の一部に過ぎない事実が憂鬱だ」と述べ、女性に対する暴力の根深さに懸念を示しました。事件後、容疑者は逮捕されましたが、職場の安全性や捜査当局の対応が不十分だとする批判が広がっています。
これを受け、インド医師会(IMA)は医療現場での暴力について「特に女性が被害を受けやすい」と指摘し、8月中旬には全国的な24時間ストライキを呼びかけました。このストライキにより、多くの病院で救急診療を除く外来診察が一時閉鎖される事態となり、問題の深刻さを示しました。
インドのモディ首相は8月25日の演説で「女性の安全は極めて重要だ」と強調し、各州政府に対して女性に対する犯罪への厳正な対応を求めました。一方で、抗議活動の一部ではモディ氏が率いる与党・インド人民党(BJP)と野党が衝突する場面も見られました。特に西ベンガル州では、地元警察が催涙ガスや放水を使用してデモを鎮圧するなど、抗議の激化が報じられています。この対応を巡って、モディ政権と西ベンガル州政府が互いの責任を指摘し合い、州首相バナジー氏の辞任を求める声も上がっています。
女性への暴力問題はインドにおいて長年の課題です。特に2012年、女性がバス車内で集団暴行を受け死亡した事件を契機に、性犯罪対策の強化と厳罰化が進められましたが、依然として根本的な改善には至っていません。近年、治安の改善が進んでいるとする声もありますが、社会の一部に根付いた暴力的な風潮や女性を軽視する構造的な問題は残っています。
SNSでは「女性に対する暴力は許されない」「医療現場の安全確保は喫緊の課題」といった声が多く寄せられる一方で、「政治的な駆け引きが問題解決を妨げている」との指摘もあります。特に西ベンガル州では、女性の安全確保をめぐる抗議が、与野党の争いの一環として利用されているとの見方も広がっています。
女性への暴力問題は、インド国内だけでなく国際的な注目も集めており、この動きが実質的な制度改革につながるのか、引き続きその行方が注視されます。女性の安全と権利が守られる社会の実現に向けて、今回の抗議活動が大きな転換点となる可能性があります。