2000年代初頭に激しい価格競争を繰り広げた日本、中国、韓国の造船業界は、現在、全く異なる局面を迎えています。ウクライナ戦争や中東の緊張により船舶需要が高まり、供給不足が顕著になっています。こうした中、今治造船は価格競争に注力してきた戦略を転換し、選別受注や船主との連携強化に乗り出しています。
ロシアによるウクライナ侵攻や中東情勢の影響で船不足が深刻化し、新造船の価格が約15年ぶりの高値圏に達しています。英国の調査会社クラークソン・リサーチによると、2024年8月の新造船価格指数は1988年1月を基準とする100から188.7に上昇し、過去最高水準に迫っています。この価格高騰により、今治造船の業績は好調で、2024年3月期の売上高は前年比17.7%増の4431億円となり、約3.7年分の工事量を確保している状況です。
しかし、中国勢の台頭も見逃せません。不動産市場の低迷で余剰となった労働力が造船業界に流入し、休業していた造船所の稼働が再開。直近では中国勢が世界市場のシェアで50%以上を占めています。液化天然ガス(LNG)船など高収益船舶の分野で、中国が技術的にも先行している現実を、今治造船の檜垣幸人社長も認めています。中国勢の復活により、今治造船のシェアは6%から5.5%に低下しましたが、檜垣社長は「利益を重視している」とし、シェア低下を過剰には懸念していません。
こうした中、今治造船は「選別受注」を柱に据えた戦略を展開。これまでは日本勢として3割の市場シェアを目指していましたが、今後は自社の船を評価し、価格を正当に支払う船主に重点的に配船する方針です。さらに、資本業務提携を結ぶジャパンマリンユナイテッド(JMU)との設計や営業の統合を進め、造船効率を高める施策を打ち出しています。
また、新造船が間に合わない場合には、グループ会社である正栄汽船が運航する船を貸し出す柔軟な対応も可能にし、顧客の多様なニーズに応えています。環境対応船では、大型液化二酸化炭素(CO2)輸送船の設計を標準化し、コスト削減と大量建造の効率化を図る計画です。これには日本郵船、商船三井、川崎汽船が参加しており、日本企業としての連携を強化しています。
SNS上では、「今治造船の戦略転換は日本の造船業の未来を示している」「品質重視の姿勢が信頼に繋がる」といったポジティブな意見が見られる一方、「シェア低下が長期的に影響しないか心配」との懸念も聞かれます。
浮き沈みが激しい造船市場において、今治造船が掲げる「第2幕」の戦略は、単なる競争からの脱却だけでなく、船主との信頼関係を軸にした長期的な取引基盤の構築に重きを置いています。価格だけでなく品質やサービスまで含めた総合力が、未来の競争を制するカギとなるでしょう。