医療の世界にいま、これまでの常識を覆すような劇的な変化が訪れようとしています。日本の大手製薬メーカーである第一三共株式会社が、次世代の抗がん剤として期待される「ADC(抗体薬物複合体)」の開発において、世界を震撼させる大きな一歩を踏み出したのです。2019年03月、同社はイギリスの製薬大手アストラゼネカと、開発中の新薬に関する戦略的提携を発表しました。この契約によってもたらされる対価は最大で69億ドル、日本円にして約7600億円という破格の規模であり、業界全体に激震が走っています。
第一三共の中山譲治会長兼最高経営責任者(CEO)は、この提携を通じて抗がん剤開発のスピードを飛躍的に高める決意を表明しました。今回の契約対象となったのは、現在鋭意開発が進められている「トラスツズマブ・デルクステカン」という革新的な新薬です。アストラゼネカが研究開発費の半分を負担するという異例のバックアップ体制により、世界的な販売網や高度なノウハウが惜しみなく投入されることになります。SNS上でも「日本企業の技術力がついに世界を動かした」と、多くの驚きと期待の声が上がっているようです。
がん治療の「狙撃手」!ADC(抗体薬物複合体)とは何か
そもそも、世界中の注目を集めている「ADC」とはどのようなものなのでしょうか。これは「Antibody-Drug Conjugate」の略称で、日本語では抗体薬物複合体と呼ばれます。簡単に言えば、がん細胞を正確に見つけ出す「ミサイル(抗体)」と、敵を撃破する「爆弾(抗がん剤)」を強力な接着剤で合体させた、ハイブリッド型の医薬品なのです。従来の抗がん剤は全身に作用するため副作用が懸念されてきましたが、ADCは標的となるがん細胞にのみ直接薬を届けるため、高い治療効果と安全性の両立が期待されています。
しかし、この魔法のような薬の実用化は極めて困難だと言われてきました。2019年07月31日現在、世界で承認されているADCはわずか3製品にとどまっているのが現状です。開発の最大の障壁となっているのが、抗体と薬物を繋ぎ止める「リンカー」という化合物の設計にあります。このリンカーの結合が不安定だと、標的に届く前に薬物が血液中に漏れ出し、正常な細胞を傷つける副作用を引き起こしてしまいます。まさに、分子レベルでの高度な職人芸とも言える化学合成の技術が求められる分野なのです。
興味深いことに、近年の世界的な製薬大手は、細胞や遺伝子を扱うバイオテクノロジーに注力するあまり、伝統的な「化学合成」の技術を手放す傾向にありました。そうした中、抗がん剤分野では後発組とされていた第一三共が、長年培ってきた自社の強みである化学合成のノウハウを結集させ、この難題をクリアしたことは特筆に値するでしょう。流行に流されず、地道に積み上げてきた基礎研究が、今こうして世界一級のイノベーションとして花開いた事実に、私は日本のモノづくりの底力と深い誇りを感じずにはいられません。
臨床試験で驚異の成績!難治性がんへの新たな希望
実際の治療現場からも、驚くべき成果が報告されています。臨床試験(治験)の結果によれば、従来の薬が効かなくなった重度の薬剤耐性を持つ乳がん患者さんのうち、約5割の方で腫瘍の縮小が確認されました。がんの増大が停止したケースまで含めると、なんと8割以上の患者さんに効果が見られたというのです。この驚異的な数字は、乳がんだけでなく胃がんや大腸がん、肺がんといった幅広い疾患への応用も期待させてくれます。まさに、がん治療の歴史に新たな1ページを刻む出来事と言えるでしょう。
こうした実績は国際的にも高く評価されており、2018年06月に開催された米国臨床腫瘍学会(ASCO)では、数千件の発表の中から特に画期的な研究として「デイリーニュース」に大々的に取り上げられました。医療関係者の間では「これこそが次世代の標準治療になるかもしれない」という熱烈な期待が広がっています。最先端のバイオ技術と伝統の化学合成が融合して生まれたこの「メイド・イン・ジャパン」の特効薬が、世界中の患者さんの未来を明るく照らす日は、もうすぐそこまで来ているのかもしれません。