2019年6月7日時点の日本の株式市場では、株価指数先物取引が売買の主導権を握るという異例の状況が続いています。この日の日経平均株価は、前日比で一時66円高まで上昇したものの、最終的には2円安の2万0774円で取引を終え、前日の勢いを維持することはできませんでした。その背景には、短期的な投機筋による先物市場での活発な動きと、現物株市場での投資家の根強い慎重姿勢が透けて見えます。
特に注目すべきは、日経平均先物の買越枚数が、およそ2か月半ぶりの高水準に達しているのに対し、東証1部の売買代金が極端に低迷している事実です。この日の東証1部の売買代金は1兆8427億円と、米国市場が休場だった日を除けば、4月22日以来約1か月半ぶりの低水準となりました。これは「中長期的な視点を持つ投資家は依然として慎重であり、現物株への注文が非常に少ない状態が継続している」という、国内大手証券のトレーダーのコメントからも明らかになっています。
市場の関心は、米国の金融政策を担う連邦準備制度理事会(FRB)の動向に集まっています。FRBが景気の下支えを目的として利下げを行うのではないかという期待感が急激に高まったことが、短期筋の動きを加速させています。具体的には、相場下落を見込んで積み上げていた株価指数先物の「売り持ち高」を、短期的な相場反転を受けて慌てて買い戻す(ショートカバー)動きが強まっている状況です。
この先物主導の動きは、取引高の比率からも明確に見えてきます。日経平均先物の日中取引と夜間取引を合わせた総売買代金と、東証1部の売買代金を比較すると、6月5日にはほぼ匹敵する0.94という水準に達しました。これは、4月の平均値0.69と比べても、先物市場の存在感がいかに増しているかを示す結果でしょう。株式のプロフェッショナルたちが取引する市場で、先物が現物株と同じくらいのインパクトを持っているわけです。
海外投資家、特に短期的な利益を追求するヘッジファンドやCTA(商品投資顧問)と呼ばれるアルゴリズム取引を行う投資顧問の動向が、この先物主導の背景にあります。QUICKのデータによれば、株価が大きく上昇した6月5日には、大手証券会社を経由した日経平均先物の売買で、合計2398枚の買い越しが確認され、これは3月26日以来の高い水準です。シティグループ証券の松本圭太市場営業本部長は「海外投資家の短期筋を中心に、積み上がっていた日経平均先物の売り持ち高の一部が解消された」と解説しています。
特に、推定で1万2196枚もの売り持ち高を抱えていたクレディ・スイス証券経由の買い越しが1670枚と最も大きかったことから、相場の一時的なトレンド転換を受けて、CTAがプログラムに基づいて機械的に買い戻しを行った可能性が指摘されています。大阪取引所が発表した先物の投資部門別売買動向でも、海外投資家が5月に日本株の株価指数先物を約1兆8000億円も売り越していたことが明らかになっており、この売り越し額は2018年10月以来の規模でした。したがって、今回の買い越しは、相場の見通しが改善したというよりは、急激な価格変動に伴うリスク管理の動きであると捉えるべきでしょう。
🇺🇸FRB利下げ期待の「光と影」:なぜ日本株は買われにくいのか?
世界的な株価上昇の引き金となったFRBの利下げ期待ですが、これが日本株には素直な追い風となりにくい複雑な事情が存在します。クレディ・スイス証券の牧野淳株式副本部長は、「米国の金利が下がっても日本の金利が下がらなければ、日米間の金利差が縮小し、結果として円高を引き起こす要因になる」と警鐘を鳴らしています。円高は、トヨタ自動車やソニーなどの輸出関連株が多い日本株の収益を圧迫するため、海外投資家が現物株に積極的に買いを入れにくい構造的な要因となっています。
さらに、国内の大手証券会社も、合計2191枚という大きな先物買い越しを見せています。これは、現物株を長期的に「買い持ち(ロングオンリー)」する機関投資家が、短期的な相場の変動リスクを回避するために先物市場で積み上げた「売り持ち高」の一部を解消する動きが影響しているようです。つまり、この買い越しも、将来への強気の見通しというよりは、リスクヘッジ(危険回避)の調整と見るのが妥当でしょう。
また、日本市場にとって最大の懸念材料である米国発の貿易摩擦の先行き不透明感も、依然として払拭されていません。メキシコとの間でいったんは緊張緩和のムードが流れたものの、トランプ大統領がTwitterで6月5日の協議に関して「進展はあったが十分とは言えない」と指摘したことで、市場の不安は再燃しています。世界経済の減速懸念や、米中・米墨間の貿易問題が解決しない限り、投資家は現物株への本格的な投資には踏み込めないのではないでしょうか。私は、この「先物主導」の不安定な売買状況は、当面の間続く可能性が高いと予想しています。読者の皆様も、この短期筋による波乱の展開には注意が必要でしょう。