今、日本の小売業界に地殻変動が起きています。2019年08月02日現在、大手スーパーの経営陣を震え上がらせているのは、意外にも「街の薬局」から進化したドラッグストアの存在です。バローホールディングスの田代正美会長兼社長が「繁盛店の周囲に必ず5、6店舗は出店してくる」と警戒を強めれば、ライフコーポレーションの岩崎高治社長もこれまでの認識を改める必要があると吐露しています。彼らの視線の先にあるのは、医薬品の枠を超えて私たちの食卓を侵食し始めた新たな勢力なのです。
SNS上でもこの変化は敏感に察知されており、「スーパーに行くよりドラッグストアの方が卵や牛乳が安い」「ついでに薬も買えるから便利すぎる」といった声が目立っています。ドラッグストア業界は今、大きく分けて2つの潮流に分かれているといえるでしょう。一つは従来の「ヘルス&ビューティー」を重視する形ですが、もう一つが今回注目すべき「食品強化型」の店舗形態です。この戦略は、利益率の低い食品を客寄せの目玉として活用し、利益率が30%を超える医薬品や化粧品をあわせて買ってもらうというビジネスモデルに基づいています。
驚異の「食品売上5割超え」がもたらす小売界の破壊的イノベーション
日本チェーンドラッグストア協会の推計によれば、2018年には業界全体の食品売上高が約1兆7000億円という膨大な規模に達しました。2016年から2018年の3年間、食品部門は毎年6%から9%もの驚異的なペースで成長を続けているのです。業界平均の食品比率は23.4%ですが、一部の尖った企業はこの数字を大きく上回ります。北陸を拠点とするGenky DrugStoresは58.7%、九州から東京進出を果たしたコスモス薬品は56.3%と、もはや「薬も売っているスーパー」と呼ぶべき逆転現象が起きています。
コスモス薬品の横山英昭社長が「市場規模が最大の食品シェア拡大こそが最優先課題」と断言するように、彼らにとって食品は成長のエンジンそのものなのです。クスリのアオキの青木宏憲社長やクリエイトSDホールディングスの広瀬泰三社長らも、新規出店の際に近隣のスーパーの有無は関係ないと強気の姿勢を崩しません。彼らは、価格競争力のある加工食品や日配品を武器に、消費者の生活圏へ雨後のたけのこのように出店を加速させています。利便性と安さを両立したこの業態は、既存の小売秩序を根底から覆しつつあります。
しかし、ドラッグストアがスーパーを完全に圧倒するためには、大きな壁が立ちはだかっています。それは、肉や魚、野菜といった「生鮮三品」の取り扱いです。生鮮品は鮮度管理や仕入れに高度なノウハウが必要なため、一朝一夕に真似できるものではありません。これを私は、ドラッグストアが「日常のインフラ」として完成するための最後のピースだと考えます。スーパーが鮮度で逃げ切るのか、ドラッグストアが管理技術を克服して食の覇権を握るのか、2019年現在のこの戦いから目が離せそうにありません。