日本の月面探査に新時代—JAXAのスリムが切り開いた精密着陸技術

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宇宙航空研究開発機構(JAXA)の月面探査機「SLIM(スリム)」が、その運用を終えました。着陸時には逆立ち状態という想定外の状況に陥ったものの、世界で初めて実証された精密着陸技術や、月の極寒の夜を3度にわたって乗り越えた成果は、日本の月面開発における重要な礎となりました。

スリムは、JAXAが開発を担当し、三菱電機がシステム開発と製造を担った探査機です。2023年9月に基幹ロケット「H2A」で打ち上げられ、2024年1月20日に旧ソ連、アメリカ、中国、インドに続き、日本を世界で5番目の月面着陸成功国に押し上げました。これまでの探査機は着陸誤差が数キロメートルに及んでいましたが、スリムは過去の月面画像をもとに自らの位置を把握する技術を活用し、100メートル以内という「ピンポイント着陸」の実現を目指しました。

しかし、着陸の際、主エンジンの一つに不具合が発生し、逆立ち状態での着地を余儀なくされました。この影響で太陽電池が上を向かず、着陸直後には発電できませんでしたが、約1週間後、太陽の角度が変わると光を受けて発電を開始。月面の画像や岩石の成分データを地球に送り届けることに成功しました。

月面の環境は過酷で、昼は摂氏110度、夜はマイナス170度という極端な温度差が約2週間ごとに繰り返されます。スリムはこうした温度変化に耐える設計ではありませんでしたが、性能は期待を大きく上回りました。夜を迎えるたびに活動が終わると予想されていたにもかかわらず、月の昼が訪れるたびに再び運用を再開。最終的に、月の夜を3度乗り越える「越夜」を成し遂げました。この耐久性の要因を分析することで、今後の探査機設計における越夜技術の鍵が見えてくるでしょう。

月は水資源が存在する可能性があり、人類の活動拠点や火星探査など将来的な宇宙開発の足がかりとなる場所とされています。アメリカと中国の競争が激化する中、日本もその技術力をもって存在感を高めようとしています。2024年7月には文部科学省が月探査の方針を発表し、スリムで培った技術を国内企業に移転する計画が盛り込まれました。この技術移転は、日本の宇宙産業の発展に大きく寄与することが期待されています。

コンサルティング大手PwCの試算によれば、2021年から2040年までの月面開発市場は累計で約1700億ドル(約24兆円)に達すると見込まれています。三菱総合研究所の内田敦主席研究員も「官が開発した技術を民間が活用し、ビジネスとして花開かせるロールモデルとなるべき」と述べ、日本の宇宙ビジネスへの期待を示しています。

SNSでは「日本の技術力が示された」「逆立ち状態でもミッションを遂行した執念に感動」といった称賛の声が相次ぎ、スリムの功績に多くの注目が集まっています。この探査機が切り開いた精密着陸技術は、日本の月面開発の未来を照らす希望となるでしょう。

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