東京・深川で育む「ワイルドシルク」の神秘!野生化した蚕が紡ぐ保温・保湿に優れた至高の絹糸と坪川佳子さんの挑戦

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高級な輝きを放つシルクと聞けば、多くの皆さんは屋内で大切に育てられた白い繭を想像するのではないでしょうか。しかし、実は糸を作る「絹糸昆虫」は世界に約10万種も存在しています。こうした野外で育つ種類は「野蚕(やさん)」と呼ばれ、そこから得られる「ワイルドシルク」は、自然の力強さを秘めた希少な素材として世界中で珍重されているのです。

野蚕の世界は実に多様で、見る者を飽きさせません。長野県の穂高では、息を呑むほど美しい緑色の糸を吐く「天蚕(てんさん)」が最高級着物の原料として愛されています。また、中国では落ち着いた薄茶色、インドでは太陽のような金色に輝く糸を持つ種が息づいています。マダガスカルやアフリカには、中が透けて見える繭や、仲間と協力して巨大な繭を作るユニークな種も存在します。

SNS上では「野性の蚕がこんなにカラフルな糸を出すなんて驚き!」「自然界のエンジニアみたい」といった驚嘆の声が上がっています。まさに、自然が織りなす芸術品と言えるでしょう。現在、東京・深川のマンションの一室でこれら野蚕の研究に情熱を注いでいるのが、ワイルドシルクミュージアム館長の坪川佳子さんです。彼女の人生は、一枚のワイルドシルクとの出会いで一変しました。

肌への優しさが繋いだ運命とインドでの衝撃的な光景

かつてIT企業や映像制作の現場で働いていた坪川さんは、30代の頃に手織り工房でワイルドシルクの端切れを譲り受けました。肌が弱かった彼女が自作の寝具を試したところ、そのあまりの快適さに心を打たれたといいます。これを機に、彼女は日本野蚕学会の門を叩き、ついには本場インドのアッサム地方へと足を運ぶことになりました。そこで見たのは、女性たちが手作業で糸を紡ぐ神秘的な光景でした。

機械では決して再現できない、繊細で独特な「ゆらぎ」を持つ糸。その魅力に取り憑かれた坪川さんは、2012年頃から自宅で「エリサン」という野蚕の飼育をスタートさせました。エリサンは卵から羽化まで約2カ月のサイクルで成長し、年に5~6回も世代交代を繰り返します。戦時中には、その生産性の高さから増産が期待されていたという、非常にパワフルな生命力を持つ種類なのです。

深川生まれの「奇跡の繊維」が持つ驚異のハイテク機能

坪川さんが独自に交配を重ねた「深川シルク」は、すでに40世代を超えました。このワイルドシルクの最大の特徴は、糸の内部に無数の穴が開いた「中空構造」にあります。これは厳しい自然界でサナギが快適に過ごすための知恵。この構造のおかげで、布にした際に抜群の保温性と保湿性を発揮し、さらには紫外線カットや抗菌・消臭効果まで兼ね備えた、まさに天然のハイテク素材となるのです。

驚くべきことに、野蚕の魅力は衣類だけにとどまりません。坪川さんによれば「サナギは食べても美味しい」とのこと。インドで提供されたサナギの油炒めはフライドポテトのような味わいで、ペーストにして料理に混ぜるとお肉のような深いコクが出るそうです。さらに「蚕沙(さんしゃ)」と呼ばれるフンを煮出したお茶は、蚕が食べた葉の種類によって香りが変わるという、奥深い嗜好品としても注目されています。

2016年には、これらの成果を伝えるべく「ワイルドシルクミュージアム」を開設しました。週2日の開館日には、糸紡ぎ体験に目を輝かせる子供たちで賑わっています。野生の蚕が持つ無限の可能性を、現代の暮らしにどう取り入れるか。坪川さんの試みは、私たちが忘れかけていた「自然との共生」を再定義する素晴らしい活動だと感じます。皆さんも、深川で紡がれる黄金の糸に触れてみてはいかがでしょうか。

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