世界のインフラを支える「力」の象徴である建設機械の需要に、いま大きな転換点が訪れています。日本建設機械工業会が2019年07月31日に発表した統計によれば、2019年06月の建機出荷額は前年同月比で3.2%減少となる2314億円を記録しました。これは実に9カ月ぶりのマイナス成長であり、これまで右肩上がりを続けてきた市場に「頭打ち感」という冷たい風が吹き始めたことを示唆しているのでしょう。
SNS上では「新興国の成長スピードがついに鈍化したのではないか」「世界経済の先行指標である建機が動かないのは不気味だ」といった、将来を不安視する声が数多く寄せられています。今回の落ち込みの背景には、特にアジア地域での需要停滞が色濃く反映されているようです。例えばインドネシアでは前年に見られたような大規模な案件が収束し、インドやオーストラリアでは選挙の影響でインフラ投資が一時的に足踏みする形となりました。
ここで注目すべきは、建設現場の主役とも言える「油圧ショベル」などの主力機種が減少に転じている点です。油圧ショベルとは、ディーゼルエンジンなどの動力を用いてアームの先端に取り付けたバケットを動かし、掘削や積込みを行う機械を指します。建設業界の「筋肉」とも呼べるこの機械の動きが鈍ることは、それだけ物理的な開発スピードが緩やかになっていることを意味しており、投資家たちの視線も厳しさを増していくに違いありません。
米中摩擦の影と好調な北米・欧州市場のコントラスト
中国市場においては、米中貿易摩擦という巨大な影が色濃く影を落としています。日立建機の幹部も指摘するように、これまで快進撃を続けてきた中国現地メーカーの販売勢いにも陰りが見え始めているようです。コマツの2019年04月から2019年06月期における決算でも、成長の柱であった「戦略市場(新興国)」の比率が低下しており、グローバルな需要構造が刻一刻と変化している様子が読み取れます。
一方で、すべての地域が冷え込んでいるわけではない点は、希望の光と言えるかもしれません。北米市場は22カ月連続で増加を記録しており、欧州も堅調な推移を見せています。また、日本国内の内需についても、2017年に施行された排ガス規制に伴う需要の一服感が解消され、2019年06月は4.2%増の808億円とプラス成長を確保しました。排ガス規制とは、環境負荷を抑えるためにエンジンから排出される有害物質の量を制限するルールのことです。
私自身の見解としては、現在の建機市場は「崩壊」ではなく、一種の「踊り場」に差し掛かっているのだと感じます。これまでの爆発的な成長が落ち着き、より持続可能で質の高いインフラ投資へと軸足が移る過渡期にあるのではないでしょうか。特に日本国内においては、2019年10月に控える消費増税が買い控えを招く懸念もありますが、老朽化したインフラの再整備という根強いニーズが下支えになると予想されます。
2018年度(2019年03月期)の出荷額が過去最高を更新しただけに、現場の期待値が高いのは当然のことです。しかし、コマツが期待を寄せるように、2019年07月以降にアジアの選挙後需要がどれだけ力強く回復するかが、今年度の命運を分ける鍵となるはずです。私たちは今、重機のエンジン音が再び高らかに響き渡るのか、それとも静かな再編の時代へ突入するのかという、歴史的な分岐点に立ち会っているのです。