日本のエネルギー政策が、今まさに大きな歴史の転換点を迎えています。東京電力ホールディングスは2019年07月31日、福島第2原子力発電所の全4基を廃炉にすることを正式に決定いたしました。これにより、福島県内に設置された合計10基の原発すべてが姿を消すことになります。東日本大震災から続く苦渋の決断は、地域社会への約束を果たす一歩と言えるでしょう。
ネット上では「ついに全基廃炉か」「安全を考えれば当然の帰結」といった安堵の声が上がる一方で、「今後の電気代はどうなるのか」「代替エネルギーの確保は大丈夫か」という将来への不安も渦巻いています。福島第2原発の廃炉が決まったことで、震災以降に引退が決まった国内原発は21基に達しました。これは再稼働が決まった数の2倍を超えており、原発依存からの脱却が急速に進んでいる実態を浮き彫りにしています。
前代未聞の巨大プロジェクト!全10基同時廃炉の険しい道のり
2019年07月31日に福島県庁を訪れた東電の小早川智明社長は、内堀雅雄知事に対し、工程の短縮や使用済み核燃料の早期搬出に全力を尽くす考えを伝えました。しかし、発電所にある全原発を廃炉にするという作業は、どの電力会社も経験したことがない未知の領域です。東電は今後40年を超える歳月をかけてこの巨大な任務に挑むことになりますが、その道のりは決して平坦ではありません。
特に困難を極めるのが、福島第1原発で発生した「デブリ」の回収作業です。デブリとは、事故の熱で溶け落ちた核燃料が周囲の構造物と混ざり合って固まったものを指します。これを取り出す技術は世界でもまだ確立されておらず、まさに人類未踏の挑戦と言っても過言ではありません。2021年から開始予定の取り出し作業が計画通りに進むかどうか、世界中がその動向を固唾をのんで見守っています。
さらに現場を悩ませているのが、膨大な作業を支える「人手不足」の問題です。東電は当初、外国人労働者の受け入れを検討しましたが、安全確保の観点から現在は凍結状態にあります。現時点では人員は足りているとされていますが、長期にわたる過酷な現場でいかに熟練した人材を確保し続けるかは、プロジェクトの成否を分ける最大の懸念事項となるでしょう。
膨らむコストと「乾式貯蔵」が抱えるジレンマ
廃炉を効率的に進める切り札として期待されているのが「乾式貯蔵」という保管方法です。これは、使い終わった核燃料を水や電気を使わず、空気の自然対流によって冷却する画期的なシステムです。小早川社長はこの施設の設置により作業の負担を軽減できると主張していますが、地元住民からは「40年経っても燃料が県内に残るのではないか」という根強い不信感が拭えていません。
内堀知事は、燃料を最終的には福島県外へ搬出することを絶対条件として国や東電に迫っています。しかし、肝心の「行き先」はいまだに白紙の状態です。出口の見えない核燃料の行方は、地元との信頼関係を揺るがす火種になりかねません。約束を守るための具体的なロードマップを提示できるかどうかが、今後の東電に課せられた重い宿題となるはずです。
経済的なインパクトも無視できません。今回の廃炉に伴う費用は約4100億円に上ると試算されました。2019年04〜06月期の決算では一時的な利益計上などで打撃を抑えたものの、福島第1原発の費用が当初の2兆円から8兆円超まで膨らんだ経緯を考えると、最終的な総額がどこまで跳ね上がるかは未知数です。この巨額の負担は、東電の経営基盤を根底から揺さぶる可能性を秘めています。
原発の優位性が揺らぐ今、日本の電力再編は加速するか
国は2030年に向けて、全電力の約2割を原発で賄うという目標を掲げています。しかし、次々と廃炉が決まる現状では、その目標達成は極めて厳しいと言わざるを得ません。加えて、テロ対策施設の設置が義務付けられるなど安全基準が厳格化されたことで、安全対策費は数千億円単位で膨張し続けています。かつて「安価なエネルギー」とされた原発の経済的な優位性は、今や過去のものとなりつつあります。
筆者の個人的な見解としては、これほどまでにコストとリスクが膨らむ中で、従来の原発政策に固執し続けるのは限界に来ていると感じます。福島第2原発の廃炉決定は、単なる一施設の終焉ではなく、日本のエネルギー供給構造を根本から見直す「再編」の号砲ではないでしょうか。巨額の廃炉費用に耐えられない電力会社が現れれば、業界の地図は一気に塗り替えられるかもしれません。
私たちは今、輝かしい電力の恩恵の裏側にあった、重く長い「後始末」の時代に足を踏み入れました。未来の世代にどのようなエネルギー環境を引き継ぐべきか、感情論ではなく冷徹な経済合理性と安全性を天秤にかけ、議論を深める時が来ています。大廃炉時代の幕開けは、私たち一人ひとりに「電気との付き合い方」を改めて問い直しているのです。