アジアのオフィス市場がいま、かつてない激動の時代を迎えています。シンガポールに拠点を置くシェアオフィスの雄「ジャストコ(JustCo)」が、2019年中に日本やベトナムを含む5つの国と地域へ一挙に進出することを発表しました。拠点数を現在の2倍となる約70カ所へ拡大し、まさに「アジアのウィーワーク」としての地位を不動のものにしようとしています。
SNS上では、この急拡大に対して「ついにジャストコが日本に来るのか」「スタートアップにとって最高の環境になりそう」といった期待の声が続々と上がっています。2011年の創業以来、東南アジアを中心に培ってきたノウハウを武器に、彼らは単なる「場所貸し」という従来の枠組みを次々と塗り替えているのです。勢いに乗る同社の日本進出先は、東京都心や大阪の中心部が有力視されています。
大企業とスタートアップを繋ぐ「ファシリテーター」としての真価
ジャストコが選ばれる理由は、入居者同士の交流を促す「コミュニティー作り」への徹底したこだわりにあります。彼らは自らを、異なる企業同士を結びつける「ファシリテーター(中立的な立場で議論や交流を円滑にする促進者)」と定義しています。アプリ開発を通じてIT企業同士をマッチングさせるなど、ビジネスが生まれるきっかけをシステムとして提供している点が非常にユニークです。
象徴的な取り組みが、短期間で集中的にプログラムやサービスを開発する「ハッカソン」というイベントの開催です。あのTikTokを運営するバイトダンス社もジャカルタの拠点を活用しており、この場を通じて優秀なエンジニアなどのIT人材を確保することに成功しています。こうした実利的なメリットこそが、単なるデスクの提供を超えたジャストコ独自の付加価値といえるでしょう。
さらに、ベンチャーキャピタル(VC)と連携した「インキュベーション(起業家の卵を育てる支援)」体制も万全です。シンガポールでは地場大手VCのトライブと組み、入居者が資金調達や経営戦略のアドバイスを無料で受けられる環境を構築しました。VC側にとっても有望な投資先をいち早く発掘できるメリットがあり、双方に恩恵をもたらすエコシステムが完成しています。
2019年、アジアのシェアオフィス市場は「黎明期」から黄金期へ
不動産コンサルタントの調査によれば、2015年から2018年にかけてのアジアのシェアオフィス市場は、年平均44%という驚異的な成長率を記録しました。これは米国の伸び率を大幅に上回るスピードです。特筆すべきは利用者の顔ぶれで、ジャストコでは顧客の約6割を多国籍企業が占めています。保守的だった大企業が、革新的なアイデアを求めてシェアオフィスへ流入しているのです。
コン・ワンシンCEOは「アジアにおけるオフィス市場全体に占めるシェアオフィスの割合はまだ5%未満であり、依然として黎明期にある」と、さらなる拡大に自信をのぞかせています。2018年にはシンガポール政府系ファンドなどから約1億7700万ドルを調達しましたが、2019年末までにはさらに5億ドルの資金調達を目指すという強気な姿勢を見せています。
競合する米ウィーワークや中国のユーコミューンといった巨大資本との争いは、今後さらに激化していくことが予想されます。しかし、ジャストコのように「ビジネスを加速させる触媒」としての機能を研ぎ澄ませているプレイヤーこそが、これからのオフィスのあり方を定義するのではないでしょうか。単に安く便利な場所を貸すのではなく、誰と出会えるかという体験こそが、現代のビジネスパーソンには必要なのです。