日本の養豚業がいま、かつてない正念場を迎えています。2019年07月31日、吉川貴盛農林水産大臣は、三重県や福井県で相次いで発生した「豚コレラ(CSF)」の感染拡大に歯止めをかけるべく、非常に強力な新方針を打ち出しました。それは、全国にある全ての養豚場に対して、ウイルスを媒介する野生イノシシの侵入を防ぐための「防護柵」の設置を義務付けるというものです。
豚コレラとは、豚やイノシシに特有のウイルス性疾患であり、非常に強い伝染力と高い致死率を持つのが特徴です。家畜伝染病予防法において厳格に管理されており、一度発生すればその農場の豚をすべて殺処分しなければならないという、生産者にとってはまさに悪夢のような病気なのです。今回の義務化は、野山を駆け巡るイノシシが農場内にウイルスを持ち込むリスクを物理的に遮断することを目的としています。
SNS上では今回の発表に対し、「ようやく国が重い腰を上げた」「一刻も早い対策を望む」といった切実な声が上がる一方で、「中小規模の農場にとって柵の設置費用は大きな負担になるのではないか」という懸念の声も目立っています。現場の悲鳴と、産業を守るためのスピード感ある決断。その両者の間で揺れる現状は、まさに緊急事態と呼ぶにふさわしい緊張感に包まれていると言えるでしょう。
防疫体制の強化と早期出荷による「空房化」の狙い
政府が今回打ち出した策は、単なる柵の設置に留まりません。農水省は今後、飼養衛生管理基準という、農家が守るべきルールブックを改正し、法的な強制力を持たせる考えです。さらに、感染リスクが特に高いと判断された地域においては、飼育している豚を通常よりも早く出荷し、豚舎を一時的に空の状態にする「早期出荷」の取り組みを各都道府県へ強力に働きかけていく方針を明らかにしました。
専門的な用語で「空房化(くうぼうか)」と呼ばれるこの対策は、ウイルスの宿主となる動物を一定期間いなくさせることで、感染の連鎖を物理的に断ち切る狙いがあります。感染が広がってから殺処分するのではなく、健康なうちに市場へ出すことで、農家の経済的損失を抑えつつ地域全体の防疫レベルを引き上げるという、極めて現実的かつ戦略的なアプローチであると私は評価しています。
私たちの食卓に並ぶ豚肉の安全を守るためには、こうした厳しい措置も辞さない姿勢が不可欠です。もちろん、防護柵の設置には多額のコストが伴うため、国による手厚い財政支援がセットで議論されるべきなのは言うまでもありません。2019年08月01日現在、日本の養豚文化を次世代へ繋げるための「負けられない戦い」が、全国の農場で静かに、そして激しく始まっています。