アジアの海の平穏を揺るがす大きな動きが、今まさに加速しています。2019年06月初旬、シンガポールを訪れた岩屋毅防衛相は、日米豪の3カ国による防衛相会談に臨みました。岩屋氏は会談後、インド太平洋地域の平和を守るためには、これら3カ国が防衛協力を力強く推し進めることが不可欠であると、詰めかけた記者団に対して強調しています。この発言の裏には、中国が南シナ海で急速に進めている軍事拠点化への強い危機感が隠されているのでしょう。
中国側は、南シナ海のほぼ全域に対して自国の主権が及ぶという大胆な主張を展開しています。その根拠として彼らが設定しているのが、地図上に描かれた9本の境界線です。このラインが牛の舌を伸ばしたような形状をしていることから、国際社会では「中国の赤い舌」という異名で呼ばれることも少なくありません。フィリピンやマレーシアといった周辺諸国も領有権を訴えており、この海域では絶えず緊張感の漂う対立が繰り返されているのが現状です。
2019年08月02日に公開された中国の国防白書によれば、彼らは南シナ海を「中国固有の領土」であると断言しています。島々で行われているインフラ整備や軍事設備の配置についても、国家主権の正当な行使であると正当化しているのです。さらに白書内では、アメリカなどの「域外国家」が中国の領海や空域に不法に侵入していると厳しく非難しており、周辺海域における他国の動きを強く牽制する姿勢を鮮明に打ち出しました。
SNS上では、こうした一方的な現状変更の試みに対して、「資源だけでなく安全保障のパワーバランスが崩れる」といった懸念の声が多く上がっています。また、日本のエネルギー航路、いわゆるシーレーンが脅かされることへの不安を口にするユーザーも目立ちます。中国がこれほどまでに南シナ海へ執着する背景には、輸入石油の8割が通過する交通の要衝であることや、眠っている豊富な天然資源への関心があるのは間違いありません。
水面下で繰り広げられる対米抑止力と「航行の自由」の攻防
しかし、中国の真の狙いは資源確保以上に「対米抑止力」の強化にあると考えられます。南シナ海は東シナ海と比較して水深が深く、原子力潜水艦が敵の探知を逃れて西太平洋へと進出しやすいという地理的特性を持っています。ここを聖域化できれば、いつでもアメリカ本土を射程に収めるミサイル攻撃の態勢を維持できるでしょう。中国にとってこの海域を支配することは、アメリカの軍事力に対抗するための生命線とも言える重要な戦略なのです。
対するアメリカも、中国の外洋進出を黙って見過ごすわけにはいきません。南シナ海を最前線と位置づける米国は、自国の艦艇を派遣する「航行の自由作戦」を精力的に展開しています。これは、国際法で認められた航行の権利をアピールし、中国による一方的な支配を認めないという強い意思表示です。さらにアメリカは、インドやフィリピンといった国々との共同訓練を呼びかけ、多国間での包囲網を構築しようと奔走している最中です。
紛争を回避するための外交努力として、中国とASEAN(東南アジア諸国連合)の間では、衝突を防ぐルールである「行動規範」の策定が進められています。しかし、中国の海洋進出を法的に制限したいASEAN側と、自国の支配力をさらに強固なものにしたい中国側の思惑は、平行線を辿ったままです。両者の溝を埋めるのは容易ではなく、交渉が難航することは避けられない見通しであり、地域の不安定な情勢は今後もしばらく続くはずです。
編集者の視点から言えば、この問題は決して遠い国の出来事ではありません。日本の平和と経済を支える海路が、軍事的な緊張にさらされている現実に私たちはもっと目を向けるべきでしょう。力による現状変更がまかり通る国際社会にならないよう、日米豪の連携を軸にした冷静かつ毅然とした外交努力が、今こそ試されていると言えます。情報の断片に惑わされず、常に地図を俯瞰する視点で情勢を注視していくことが重要ではないでしょうか。