米中経済「デカップリング」の衝撃。WTO体制の揺らぎと、覇権を懸け分断される世界経済の行方

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2001年に中国が世界貿易機関、いわゆるWTOへの加盟を目前に控えていた頃、ある大都市の市長は深刻な不安に苛まれていました。毛沢東がかつて絶賛した地元のトラックメーカーが、自由貿易の波に飲み込まれて消滅してしまうのではないかと危惧したのです。しかし、それから約20年が経過した2019年08月02日現在、その予想は驚くべき形で裏切られました。その企業、中国重汽(シノトラック)は倒産どころか、世界100カ国以上に輸出を行う巨大な国有企業へと成長を遂げています。

皮肉なことに、現在危機に瀕しているのは企業ではなく、貿易のルールを司るWTOそのものといえるでしょう。トランプ政権下の米国は、かつて中国の加盟を後押しした判断は誤りであったと断じ、内部紛争によって組織は機能不全に陥っています。かつての「社会主義の象徴」が繁栄し、自由貿易の枠組みが停滞するというこの逆転現象は、現在のグローバル経済が直面している「デカップリング」という現象を理解する上で、極めて重要な示唆を与えてくれます。

ここで注目すべき「デカップリング」とは、密接に結びついていた二つの経済圏が、あたかも連結を外すように切り離されていくことを指す専門用語です。2000年にクリントン元米大統領は、中国のWTO加盟が経済的自由をもたらし、ひいては民主主義的な価値観を中国に根付かせるという壮大な物語を語りました。人々が豊かになれば自然と権利を求めるようになるという期待が、当時の米国の政策を支えていたのです。しかし、現実はその思惑とは異なる方向に進みました。

崩れ去った民主化の神話と、強まる愛国主義の波

中国はシノトラックに代表される数千もの国有企業の躍進を武器に、2001年以降、驚異的な経済成長を実現しました。確かにクリントン氏が予測したように、中国の消費者は自らの夢を叶える購買力を手にしましたが、その力は必ずしも米国の利益には結びつきませんでした。例えば、米国が通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)に対して制裁措置を講じた際、中国の消費者は愛国心から同社製品を積極的に買い支えるという行動に出たのです。個人の自由が、国家への忠誠を加速させる結果となりました。

こうした状況を鑑みると、米中間の衝突は単なる関税の掛け合いといった「貿易摩擦」の域を完全に超えていることがわかります。これは、自国の首位転落を恐れる米国と、独自の政治・経済システムを貫く中国による、真の覇権争いなのです。SNS上でも「もはや歩み寄りは不可能ではないか」といった悲観的な声や、「冷戦時代の再来だ」と危機感を募らせる意見が噴出しています。たとえ当面の貿易交渉に一定の進展があったとしても、この対立構造の根底が変わる兆しは見えません。

過去40年間にわたって米国が築き上げてきた中国との友好なエンゲージメント(関与政策)は、今まさに終焉を迎えました。研究機関の専門家も指摘するように、トランプ政権は中国をあらゆる面での競合相手と位置づけています。中国の技術革新を封じ込め、その政治的・経済的な影響力を削ぎ落とすことこそが米国の国益にかなうという、極めて強硬な姿勢が鮮明になっています。これにより、世界経済を数十年前の状態に逆行させかねない、長い分離のプロセスが始まっています。

数字を見れば、その変化は一目瞭然です。米国の輸入全体に占める中国製品の割合は、2018年03月に22%でピークを打ち、その後は明確な減少に転じました。投資面でも、2017年に約290億ドルに達していた中国から米国への投資額は、2018年にはわずか50億ドルへと急落しています。かつての「期待」が深い「不信感」へと塗り替えられた今、壊れた経済体制を再構築するには、計り知れない歳月が必要になることは間違いありません。

世界経済の主導権をどちらが握るのか、その結末が今後の地球規模の勢力図を決定づけるでしょう。20年前に米国が抱いた「中国を自由主義陣営に引き込める」という楽観的な見通しは、シノトラックの躍進という現実によって打ち砕かれました。私たちは今、かつての常識が通用しない新しい時代の入り口に立っています。この分断の先にどのような未来が待っているのか、経済の覇権を懸けたこの戦いからは、一刻も目が離せません。

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