2019年8月1日、国内製薬大手9社の2019年4月から6月期における連結決算が出そろいました。今回の発表で最も注目すべき点は、実に5社もの企業で最終損益が悪化しているという厳しい現実です。業界全体が変革期にある中で、各社の業績を左右したのは自社製品の売上以上に、他社との「提携」から生まれる収益の行方でした。
製薬業界には、新薬の開発や販売を効率化するために他社と手を組む独自のビジネスモデルが存在します。提携の際には「契約一時金」が支払われ、その後の進捗に応じて「マイルストン」と呼ばれる達成報奨金や、売上の一部を受け取る「ロイヤルティー」が発生する仕組みです。この戦略的なパートナーシップが、今期の各社の数字に鮮明なコントラストを描き出しています。
SNS上では「薬価改定の影響だけでなく、提携ビジネスの成否がここまで数字に出るとは」といった驚きの声が上がっています。また「主力薬の売上が落ちても、ライセンス収入で補填できるのは知財戦略の勝利だ」という投資家目線の鋭い指摘も見受けられました。まさに、自社の研究開発力と交渉力が同時に試される、スリリングな決算内容だったといえるでしょう。
成功の鍵を握るロイヤルティー収入!小野薬品と第一三共の躍進
増益を勝ち取った企業の筆頭は、小野薬品工業です。2019年8月1日に発表された連結純利益は、前年同期比で7%増の163億円を記録しました。主力のがん免疫薬「オプジーボ」は、薬価の引き下げや競合する薬剤の登場によって減収を余儀なくされましたが、それを補ったのが米ブリストル・マイヤーズスクイブ(BMS)などからの莫大なロイヤルティー収入です。
第一三共も、提携の果実を巧みに享受している一社でしょう。2019年3月に英アストラゼネカと結んだ大型提携により、契約一時金のうち25億円を今期の収益として計上しました。さらに、莫大な費用がかかる研究開発費の一部を提携先が負担する形となり、経営の効率化が進んでいます。開発リスクを分散しつつ、利益を確保するスマートな立ち回りが光りますね。
同様に、エーザイも米メルクや米バイオジェンとの共同研究によって、強固な経営基盤を維持しているようです。これら2社が合計で約180億円もの研究開発費を肩代わりしたことで、自社の負担額は前年よりも50億円近く減少しました。新薬開発には数百億円規模の投資が不可欠ですが、このように他社の資本を戦略的に活用することが、現代の製薬ビジネスには欠かせません。
係争と反動減に苦しむ各社、提携ビジネスが抱えるリスクの正体
一方で、提携が裏目に出た形となったのが田辺三菱製薬です。2019年4月から6月期の純利益は、前年同期比で51%減の68億円と大幅な落ち込みを見せました。その要因は、スイスのノバルティス社との間で発生した契約を巡る係争にあります。本来得られるはずのロイヤルティー収入を業績に計上できないという事態は、外部パートナーへの依存度の高さが招いたリスクといえます。
また、塩野義製薬も最終損益の悪化に見舞われましたが、こちらは前年度の好調さが仇となった「反動」によるものです。前年にスイスのロシュ社から受け取った巨額のマイルストン収入が大きすぎたため、今期はそのギャップが鮮明になってしまいました。一時的な利益に一喜一憂せず、いかにして持続可能な収益モデルを構築するかが、今後の大きな課題となるでしょう。
私は、今回の決算結果を見て、製薬会社がもはや「薬を作るメーカー」から「知財を管理する投資家」に近い側面を持ち始めていると感じました。一社の力だけで全てを完結させる時代は終わり、どの企業と組み、どのような契約を結ぶかという「ビジネスデザイン能力」こそが、企業の命運を分ける決定打になるはずです。これからの製薬業界の勢力図から目が離せません。