中国企業が海外市場で急速に存在感を高めています。2023年12月期における中国本土上場企業(金融業を除く)の海外売上高は、前期比5%増の約8兆1000億元(約166兆円)と過去最高を更新しました。これにより、海外売上高が全体の13.1%を占めるまで成長しました。この成果は、中国企業が自社ブランドを武器にグローバル市場での競争力を強化していることを示しています。しかし、この躍進の裏側では、政治的要因が予期せぬ障害となる現実も浮き彫りになっています。
アフリカ市場で圧倒的なシェアを持つスマートフォンメーカーの伝音控股(トランシオン)は、売上高の99%を海外に依存しています。同様に、建設機械大手の三一重工は61%、電気自動車(EV)で注目される比亜迪(BYD)は27%を海外市場から得ています。これらの企業は、かつてOEM(相手先ブランドによる生産)やODM(相手先ブランドによる設計・製造)を通じて成長してきましたが、現在ではグローバル市場での自社ブランド確立を目指す段階にあります。
しかし、このような戦略には予期せぬリスクが伴います。2024年にベトナムで23万2200平方メートル規模の新工場を着工し、現地市場でのシェア拡大を図っていた中国電動二輪車大手の雅迪集団控股(ヤディア・グループ)は、南シナ海の領有権を巡る問題で大きな批判に直面しました。同社のベトナム法人が公式ウェブサイトの地図上で、南沙諸島(英名スプラトリー諸島、ベトナム名チュオンサ諸島)と西沙諸島(英名パラセル諸島、ベトナム名ホアンサ諸島)を中国名のみで表記していたことが発端です。これに対し、ベトナムの消費者から「製品をボイコットする」という厳しい声が相次ぎ、同社は現地紙を通じて謝罪を余儀なくされました。
この問題は、中国企業が海外で直面する政治的リスクの一例です。中国政府は、自国市場で収益を上げる外資系企業に対し、政治的問題で中国を批判しないよう強く求めてきました。その象徴的な例として、2018年にデルタ航空が自社ウェブサイトでチベットや台湾を独立国として扱った際、中国民用航空局が修正を要求し、同社が謝罪に追い込まれた件があります。ヤディアのケースは、これとは逆の構図で、中国企業が進出先で領土問題という「踏み絵」を踏まされる現実を示しています。
SNSでは「政治問題が経済活動に影響を与える時代」「進出先の文化や歴史を尊重しないリスクが企業価値を損なう」といった議論が活発化しています。一方で、「中国企業の謝罪は異例で、政治的柔軟性を見せた」との声もあり、国際社会における中国企業の立ち位置が注目されています。
中国企業が海外市場でさらに影響力を高める中、こうした政治的課題をどのように乗り越えるのかが今後の鍵となるでしょう。進出先での経済的成功と政治的配慮のバランスをどう取るのか、各企業の対応が試されています。