2019年6月15日をもって、住宅宿泊事業法、通称「民泊新法(みんぱくしんぽう)」が施行されてから丸1年が経過いたしました。この新法は、一般の住宅を有料で宿泊施設として貸し出す「民泊」を、年間180日を上限に認める法律のことで、旅館業法といった従来の法律よりも参入しやすくなった点が特徴です。この1年で、特に九州・沖縄エリアにおける民泊市場は、インバウンド、すなわち訪日外国人観光客の爆発的な需要に後押しされ、まさに破竹の勢いで拡大しているのが現状でしょう。
2019年5月時点で、九州・沖縄エリアでの新法に基づく届出住宅数は、なんと1,989件にも達しています。このうち、福岡県は873件と全国でも5番目の多さを誇り、4位の沖縄県に続く活況ぶりを見せています。特に福岡市内にその約9割が集中しており、個人のみならず、不動産会社をはじめとする企業の参入が非常に目立っている状況なのです。民泊仲介最大手のAirbnb(エアビーアンドビー)のデータからも、福岡市では企業の届出が個人の3倍にのぼるというデータが示されており、この市場を牽引しているのが企業であることが分かります。
なぜ、企業はこれほどまでに民泊に熱い視線を送るのでしょうか。それは、ずばり「収益性の高さ」にあります。福岡市で民泊施設の清掃を請け負う男性の話によると、部屋によっては、従来の賃貸経営の2倍近い収益が得られる場合もあるというのです。また、個人で民泊を営む男性も、煙探知機などの初期投資に約60万円かかったものの、賃貸よりも月に約5万円ほど収益が多くなると打ち明けています。この高い収益性こそが、多くの事業者にとって魅力的な要素になっているのでしょう。
企業が民泊に積極的に参入する背景には、訪日外国人観光客の増加という強力な追い風があります。九州を訪れた外国人観光客は、2018年には過去最高の500万人を突破しました。民泊に参入した福岡市内の不動産会社では、利用者の半数がインバウンドで占められており、特に福岡市博多区にある複合商業施設「キャナルシティ博多」の周辺は「人気が高い」として、民泊施設が急増している状況が見受けられます。また、ホテルを新設するよりも、賃貸マンションを建てて民泊に転用するほうが、ブームが去った際に賃貸用に転用しやすいため、投資リスクを抑えられるという側面も、企業の参入を後押ししているようです。
しかし、この急成長の裏側には、無視できない大きな課題が横たわっています。それは、多くの産業で問題となっている「人手不足」です。前述の福岡市の清掃会社は、「依頼される部屋数が2年で3倍に増え、今年はさらに3倍以上増える見込みで、対応しきれない」と悲痛な声をあげています。また、別の民泊会社も「従業員40人程度で150室の清掃をしているが、現在の人数でこれ以上部屋を増やせない」と厳しい実情を明らかにしています。
予約や決済はインターネット技術によって効率化が進んでも、お客様が快適に過ごすために欠かせないベッドシーツの交換や部屋の清掃といった作業は、どうしても人手に頼らざるを得ません。SNS上でも、「民泊の清掃スタッフが足りていない」「鍵の受け渡しや緊急時の対応が不安」といった反響や意見が見受けられ、サービスの質の維持に対する懸念が示されています。このような人的なリソースの不足は、せっかく拡大した民泊市場の今後の成長を妨げる「壁」となってしまうでしょう。いかにして人手不足を解消し、質の高いサービスを提供し続けることができるか。これが、民泊市場がさらなる飛躍を遂げるための、最大のカギとなるに違いありません。