「2040年問題」に備える年金改革:広がる適用拡大の可能性と課題

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2024年7月、社会保障審議会年金部会で公的年金の財政検証が発表され、これを契機に年金制度改革に関する議論が再び活発化しています。この検証では、これまで以上に多彩なオプション試算が提示され、特に被用者保険の適用拡大に関する4つのシナリオが注目を集めています。それぞれ、企業規模要件の廃止や個人事業所への適用拡大、さらには賃金要件の撤廃といった内容が含まれており、影響を受ける人数は約90万人から最大860万人に及ぶと試算されています。

こうした改革の意義は、年金額の平均や分布への影響を具体的に把握し、政策の優先順位を見極める材料を提供する点にあります。しかし、この背後には「2040年問題」という社会的課題が横たわっています。この問題とは、2040年頃に高齢化率がピークに達し、さらに生産年齢人口が急減することで多くの社会問題が表面化する状況を指します。特に、就職氷河期世代と呼ばれる1970年代から80年代半ばに生まれた世代が高齢期を迎えるこの時期に、年金制度の再構築が重要な意味を持つのです。

財政検証では、マクロ経済スライド(物価や賃金の伸びに合わせて年金給付額を調整する仕組み)が基礎年金で長期間適用されることが確認されました。この影響を特に受けやすいのは低所得層であり、基礎年金の給付水準が下がることでさらなる経済的不安を招きます。今回の試算では、モデル世帯以外にも性別や生年ごとの個人単位で給付額の分布が初めて公表され、その中で特に女性の年金額が後世代ほど改善する一方、男性の40代から50代では減少傾向にあることが示されました。この背景には、男性の厚生年金加入期間が短いことや、就業率の上昇余地が少ないことなどが挙げられます。

一方で、基礎年金の保険料拠出期間を現行の40年から45年に延長する案は、低年金者の救済策としても効果的です。例えば、50歳の男性における指数は95.2となり、他の適用拡大の試算結果よりも高い値を示しました。しかし、政府が保険料負担増への反発を恐れ、この案を早々に見送ったことは議論の余地を残す結果となりました。

また、適用拡大による影響は年金制度だけでなく健康保険にも及びます。短時間労働者の厚生年金適用が進めば、健康保険組合における財政のばらつきが顕著になる可能性があります。特に、短時間労働者が多い小売業や飲食業では事業主負担が増え、逆に雇用率が低い製造業や金融業には影響が少ないと見られます。このように、年金改革は他の社会保険制度との連携を含めた包括的な視点が求められます。

2040年問題を乗り越えるためには、適用拡大や保険料拠出期間の延長といった制度改革が不可欠です。これらの改革は目先の負担を増やすように感じられがちですが、老後の経済生活を安定させるための「処方箋」として機能します。SNS上でも「負担増への懸念はあるが、将来への投資と捉えるべき」「老後不安を減らすための大切な一歩」といった前向きな声が広がっています。政府は、こうした国民の声に応え、年金改革を進めると同時に、その影響を他の社会制度にどう調整していくか、長期的視点での議論を深める必要があります。社会全体が抱える課題を直視し、改革を先送りしない姿勢が求められているのです。

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